モバイル教室

2010年9月




移動式教室(Mobile class)の現況

アイデアだけでなかなか実現していなかった移動式(モバイル)教室の製作を始めたので紹介する。

ラーニングセンターのプロジェクトを始めて3年が経過し、それなりに成果を挙げてきたが、当初から根本的な課題があった。すなわち、ラーニングセンターの先生たちは、Mobile teacherと呼ばれ、いろいろな場所に出向いて、高校卒業の資格試験を受験する人たちを支援するのが本来の仕事である。これに対してラーニングセンターは建物を現在の場所に建て 固定しているので、遠くから通うのは大変である。本来固定では困るものを固定にしてしまったということである。このため、実際には ラーニングセンター以外でも授業は行われている。ラーニングセンターを複数建てるという案もあったが、それでは費用や工数もかさみ、効率的ではない。それよりも、今回のように移動可能な教室を作り、ある場所に教室を設置て 授業を続け、数ヶ月から半年ほどしたら、教室ごと次の場所に移動する方が効率が良い。

ラーニングセンターでは、ミシン・溶接・パソコンなどの職業訓練も行っていて、そちらは、これまでは、現状の場所だけで授業を行ってきたが、それについても、この移動式教室を活用して、別の場所でも授業ができる。

現状は、上の写真の通りで、まだ少し大工仕事は残っいる。それでも、窓を上下に開けばその一部がテーブルになるところまでは出来ていて、製作の都合でラーニングセンターの前に置いてあり、試しに授業を行おうとしているところである。

複数の構造案

第一号の試作の前に、どんな形態が良いか幾つか案を考えた。今回作った分が十分役に立つのが確認できれば、第二号、第三号と続け、その場合には 別の形状も試してみたい。

プレハブ式

普通に考え易いのがこれで、まずはプレハブの教室を試作した。日本のように簡単にプレハブの建物が買えるのであれば、中古を含め、どこかから買ってくることになろうが、フィリピンでは見ないので、ラーニングセンターの先生に設計してもらい、大工に作らせた。

車両式

屋台でよくあるように 下に車輪を付けて、車などで引っ張ってゆき、しばらくそのまま停めておく。
あまり大きなものはできないだろうが、屋台でもテントのような屋根を必要に応じて 拡張して取り付け、机を並べれば、結構人が多くても使えるはずだ。フィリピンなので、十分な盗難対策が必要だろう。

テント式

テントを張って、その下に小さな収納庫を置いて、その中に黒板、机、椅子、教材等を入れておき、毎回出し入れすれば、教室の機能を果たせる。日本から運動会で使うテントを送ってもらえるという話があり、鉄パイプのフレームなど不足する部分を現地で準備する方向で検討中。

建物の概要

・予算約2万ペソで プレハブ式
・床は2.4m x 3m
・壁などの単位の中間部品(Sub assy)を、ボルト・ナットで組み立てる。
・屋根は大部分が茅葺(ニッパ)で、真ん中の一部はトタン板
・窓は 材料が角材とベニヤ板で、上下に開き、下側はテーブルになる。
・側面の窓以外は、竹を格子状に取り付ける。

その他

・形状は特に要求を出していなかったが、設計した先生の好みで、町でよく見かける店舗のようになった。
・当初は、私の軽トラで一度で運べるように、全体の大きさ、重さ、中間組立部品の大きさを制限するという
 設計方針だった。しかし、私が出掛けていた数十分の間に大きさを66%増しに勝手に変更されてしまった
 こともあり、軽トラでは運べない大きさにされてしまった。
・大工2名で、組み立て分解が可能な仕様を目指した。そのため実際にも大工は2名しか雇わなかった。


工事の様子

1.壁の製作

2.柱と壁を組み上げ 棟上の途中

3.壁が組みあがったところ

4.屋根の組み立て

5.屋根の組み立ての続き

6.茅葺も10枚くらいのクラスタにして、
順番に載せる。

7.屋根の茅葺が終わったところ

課題と対策

必要な図面が揃わない。

図面などなくても 作り始めるのがフィリピン流とも言えるし、図面・資料があっても、建物の完成図面と建材のリスト(Material List)だけのことがフィリピンでは多い。 しかし、今回は、プレハブなので、どのような中間組立部品を作るかを決めて 図面に落とし、さらに、それらの組み立て方法を示すプラモデルの組み立て図のようなものがないと難しそうであることは容易にわかる。
別な言い方をすれば、釘で固定する部分と、分解可能とするためボルト・ナットなどで固定する部分を区別する必要がある。
何度も分解組み立てが可能にするには、釘は使わず、すべてをボルト・ナットで固定してもできるが、それでは、とんでもなく非効率である。すなわち、最初の組み立て時には、釘で打ちつけるのよりボルトナットで留める加工の方がはるかに時間がかかるし、分解・再組み立ての場合、角材を全部バラバラにしてしまったら、次回組み立てる時にはジグソーパズルの世界になってしまう。釘よりも、ボルト・ナットがはるかに高価なので全体のコストも上がる。


釘で固定する部分は、釘を何本か使うので、固定部分に回転方向の力がかかっても ある程度耐えられるが、ボルト・ナットで固定する場合、今回のように何度も組み立て分解するのなら 錆びないステンレスがふさわしいが値段が高価で、一箇所に何本も使うことは考えにくい。さらに、材木も大きくないので、ボルト・ナットがあまり太くなくても 一箇所に一本というのが妥当な設計であろう。その場合には、固定部分が容易に回転し易いので、ホゾを切っておく必要があり、その形状の図面もあった方が良い。それぐらいは大工の裁量でできるとも言えるが、購入すべきボルトの長さを決めるためには、ボルトを調達する前に、頭の中ででも設計が必要なのは言うまでもない。大工が材木を加工する前にボルトを渡してしまえば、それが制約になり、ボルト・ナットに合わせて大工が材木を加工するのでなんとかなるとも言えるが、ボルトが短いと材木を薄く切り過ぎ強度の課題が残るかもしれないし、ボルトが必要以上に長いと、材料代がかさむ。場所によっては、ボルト・ナットが飛び出して危険なところが出るかもしれない。
これらの理由で、接合部分の図面も欲しいところである。

最初にラーニングセンターを建てた時は、私の方で、設計、部材調達、現場監督を全面的に担当し、さらに空いた時間で大工仕事を手伝い、その期間は自分の時間を100%費やした。 当初はそのようにできたが、別のプロジェクトも進めたい 私の時間の都合もあるし、私が居なくなるとすべて止まってしまうかもしれないので、可能な限り 現地の先生に引き継ごうとしている。今回も設計、図面の作図を先生に任せたが、作ってもらえたのは建物の完成図面とMaterial listの各1枚だけである。

残りの図面も書くように依頼したが、時間が経過するばかりで何も進まず、仕方ないので 強引に始めてしまった。
肝心な部分の設計の多くが済んでいないというのが私の認識なので、私はこの先生に対して、「問題が出たら、自分で勝手に治せ。Material list通りに買ってきて、足りない材料は自分で買ってきてくれ。」と捨て台詞を残し、材料を買ってきて、大工に作業を始めさせた。
材料のうち特に材木は、加工済みのものはかなり割高で、注文してから切って配達してもらうまでに時間がかかるので、別に書棚やテーブルを作る分も含め、かなり余裕を持って発注し、不足する場合はテーブルなどを後回しにすることにした。

軽トラで運べない

必要と思われる図面が足りず、図面のない部分は基本的に大工の裁量に任したので、壁1枚が釘で打ち付けられ、中間組立部品となり、大き過ぎて軽トラに乗らなくなってしまった。 これには、当初床が1.8m x 2.4mで設計されていたものが、私が買出しに出掛けていた数十分の間に、2.4m x 3.0mに勝手に変更されてしまっていたことも大きく影響している。

先生にすれば、自分の財布が痛まないので、自分が使うものは大きい方が良い。さらに、辺の長さの変更が建物の大きさに二乗で効いてくるということが よく分かっていないことも手伝い、軽いノリで変更したのであろう。気持ちは分からないわけでもなが、、例えば 屋根の材料は66%ほど増える。日本なら瓦をそれだけ追加で買わないといけなくなるような変更で、他にもいろいろ材料は不足してくる。それを 気楽にやってくれるのがフィリピン流だ。

大きなトラックなら運べるが、コストパフォーマンスを重視しているので、トラックでは高くついてイマイチである。
そこで考えたのは、金属で台車をつくり、その上に乗せて、台車を車で引っ張るという案である。

ボルトが揃わない

田舎のシキホール島では、ステンレスのボルトを今回の製作に必要な分だけ揃えるのは難しい。実際にも、未だ足りていなくて、ボルトナット用の穴だけ空けて、釘や、小さな木と釘で仮止めしている。

今回使ったのは、直径8mm程度のステンレスのボルトだが、市販のものは長さが精々3.5インチか4インチまでである。数も揃わないし、必要な長さもなかなか決まらないので、検討用以外のボルトを買うこともできない。

そこで、必要な長さに後から調節できるように、ステンレスの長いバーを買ってきて 必要な長さに切り、短めのボルトを途中で切断したものと溶接することにした。ラーニングセンターで溶接の授業があり、ステンレスは高価なので、これまで練習していなかったこともあり、練習を兼ねて この方法を採用し、既に半分くらいは加工が済んだ。
別の方法として、必要な長さに切ったステンレスのバーの両側にねじ山を切る方法もあり、普通ならそちらの方が良さそうである。ただ、これでは溶接の練習にならない等の課題もあり、さらに、手元にねじ山を切る工具もないので、現状では そちらの方法は採用していない。


監督不在 / 無駄が多い大工の作業

設計と同様、現場監督も先生に任せてしまいたいが、フィリピンのことなので、こちらの思ったようには なかなか進まず、期待したように やってくれない。工事よりもフェスタの方が大事だという話になり、さらに2週間ほど遅れたりする。 先生には国から給料が払われていて、移動式教室を作ることは、先生の上司に話を通しているが、業務の中で具体的に、どれだけこの作業をしてもらうのか、正式に交渉できているわけでもない。曖昧な点が少なくないが、例えば、作業が順調に進めば、こちらから先生にボーナスを出すような話にすれば、熱心に監督してくれるはずだ。

先生が来ない分、自分の可能な範囲で、私の方で監督をすることになる。
大工がまじめに働くかとうかという観点では、ずっと見張っているのが一番良いが、そうできない場合は、始業、就業時を除くと、できるだけ不定期に、現場に戻るようにするのが効果的だ。 買出しに町に出掛けて、しらばく戻って来ないように思わせながら、すぐに戻ってきたり、何度か不規則に行くだけでも 効果が高い。

できる範囲で現場の様子を見に行くようにしていても、例えば、晩に来て欲しいとお願いした訪問者が昼間に来てしまうと、その相手をするため、しばらく 現場に行けなくなってしまう。そして、後から様子を見に行くと、いろいろな問題が起こっている。

例えば、今回も 大工がノコギリで角材を長手方向に切っていたことがあった。

この非常に時間のかかる手作業を、必要だからと 大工が勝手に始めてしまうことが少なくない。電気ノコギリがあればよいが、フィリピンの田舎では、ほとんど見かけない。しかし、近所の家具屋に行けば 類似の電動工具があるので、有料で加工してくれる。私が見張っていれば、そこに持って行って加工してもらうが、私が見ていないと大工が何時間もかけて、勝手に切ってしまうことがある。大工も疲れるが、それを見た私も、精神的にどっと疲れる。非効率なことをしているのを見るだけでゾッとするということもあるが、大工の人件費がかさむし、作業が遅れ、こちらの監督する期間が延びるからである。


大工は竹の細工に時間を掛けたがる

材木の縦切り以外にも、大工が無駄に時間を使ってしまうかもしれないことは少なくないが、特に注意したいのは、竹の細工である。

今回は、竹を並行にして格子状に 壁に打ち付けることになったが、この作業はやり方によって、かかる時間が大きく異なってくる。材木や竹などの材料は、きっちりした寸法のものを入手しにくく、チェーンソーで切った程度の寸法の精度であることが多いからである。
例えば、予め まとめて、ほぼ同じ長さに切っておいた竹を、二本の並行な角材に順番に打ち付け、最後に竹の端を切って、所望の形状や長さにするのであれば、作業は短時間で終わる。

ところが、竹の端を一本一本あわせ込むように切って、埋め込むように並べる場合は、非常に時間がかかる。今回も、時間がかかる方法で作業を始め、少し見ていれば、一人の大工で約10日と見積もれ、とんでもなく時間がかかるので、1日目でやめさせ、二日目はやり方を変えてもらった。
以前にコテージのバルコニーを作る時にも、同様に、大工が竹の細工で莫大な時間をかけようとしたので、3日ほどで中断させたことがあった。この経験から、今回も同じようにならないか懸念していたが、私が、監督にあまり時間を避けないこともあり、簡単な方法に変更してもらうのが、作業を始めて1日が経過してからになった。

シロアリ対策がない

壁や柱は木で、そのままだと、木と土が接触することになり、シロアリ(アナイ)に食われないか心配である。シロアリ対策も設計に加えるように依頼していたが、これも フィリピンなので、バハラナ(Let it be)。 防虫の塗料が売られているが、値段は高いし、雨がかかって流れそうで、効果に疑問がある。現状では、材木のヘタを地面に置き、その上にプレハブの教室を置いているだけである。

私がこれまで建てたものでは、地面から柱の木までは、セメント、岩などでそこそこ距離をもたせているが、それでも食われてしまった場合には、食われた部分を取り除き、防虫剤を塗って、モルタルかパテのようなものを詰め込んでいる。後から簡単に対策できればよいが、ダメなら、食われた材木は全部入れ替えということか? それではあまりに芸がない。


ホームページへ戻る