ラーニング・センター・プロジェクト

進捗報告 2009年4月

2009年 4月作成



ラーニング・センターの現況

概要

1年間の授業が終了し、2009年4月4日(土)にラーニング・センターの卒業式が行われた。今後は、5月の第一週までに来年度の受講者を募集し、5月の第二週から新たな年度の授業を再開する。新年度は初年度の授業内容に加え、溶接と自動車整備のコースも開設する予定である。パソコン(Computer)教室については、学ぶ内容はいくらでもあるので、卒業者に対して5月から授業を継続する予定である。

ハイスクール卒業資格試験は、これまでは2月に行われていたが、昨年から10月に変更になり、昨年は2度試験が行われた。昨年10月の試験結果も発表があり、シキホール島全体では57%という高い合格率であった。前々回から前回でも、合格者、合格率とも約3倍になっていたが、前回の合格率17%に比べ、さらに3倍以上になり、高い伸び率である。マニラで問題集を買い揃えたのを渡しておいたのが役に立ったと先生たちは主張しているが、これだけ合格率が高いと、それなりに問題が易しかったとも思われる。それでも、非常に良い結果であることは間違いない。

何とか1年間授業を行ない、それなりに卒業生を出せたのは成果であるが、想定通りの課題も出ていて、今後も継続して対策が必要である。課題は、例えば、現地の先生と、支援している我々日本人側で、目指すレベルが異なっているということが挙げられる。現地のDepED (Department of Education)の先生は、とにかく沢山人を集めてくるのを最優先しているのに対して、こちらは、受講者が手に職を付けて、それを活かして収入を得るところまで実現したいと思っていが、残念ながら、それについては、先生の査定の対象に入っていない。マネージメントやメンテナンスの体制もこれから構築していく必要がある。

卒業式

4月4日、シキホールにて、ラーニング・センターが所属するALS(Alternative Learning System)の卒業式(Completion Exercises)が行われた。登録者と卒業者の数は以下の通りである。

コース 登録者 卒業者
ハイスクール卒業資格試験受験 32人 29人
ミシン(Dress Making) 16人 7人
料理(Foods) 13人 7人
パソコン(Computer) 平日コース 33人 17人
パソコン 土曜午前クラス 31人 9人
パソコン 土曜午後クラス 28人 なし

何とか一年間 授業を継続でき、仕事がある人も少なくない中 かなりの数の卒業者を出せたのは大きな成果と言えるが、ここでは、今後の改善のため、課題を検討しておく。

まずは、卒業者の数は、先生が認定した数であり、かなり贔屓目と言える。最初はもの珍しくて、沢山集まってくるが、そのうち、飽きて徐々に減るというのが内輪で話している時の先生の弁で、いろいろな人が言うフィリピンの一般論である。それを、表向きに修正したのが、上の表の卒業者の数と言える。しかしながら、そうは言っても、全く駄目な人ばかりかと言えば そうではなくて、熱心に練習している人も少なくない。それなら、最初から、登録者を絞れば良いという考え方もできるが、そうすると、熱心で是非登録して学習して欲しい人が、枠から漏れるということもあり得る。それなら、間口を広げて、かなりオーバーブッキングして、落伍者が出て適正な人数になるのを待つ現状のスタイルで良いとも言えるが、それも荒っぽいので、新年度は、実験的な比較の意味も含めて、本年より登録者を絞ってスタートさせるということで話がまとまっている。

補足しておくと、ハイスクール卒業資格試験受験の方は、ラーニングセンターだけの数ではなくて、ラーニングセンターの先生が担当している地域全体の受講者の数である。先生たちの方が、受講者の居るところにモバイルで出向いて、授業するというのが、もともとのスタイルなので、固定のラーニングセンターを建てること自体が根本的な矛盾とも言える。プレハブで、毎年移動できるような教室も加えるという案も考えられる。いずれにせよ、このハイスクール卒業資格試験受験についても、現状のラーニングセンターでも、まだ試験に合格していない人を含め、受講者が全くなくなるわけではなく、今後もクラスは開講され、授業は継続される。その他の職業訓練のコースについては、新年度はある程度登録者を絞りながらも、授業を継続する。

パソコン教室については、初年度は特に機材の準備が間に合わないので、様子見するつもりであったが、実際には、沢山の登録があり、可能な限りパソコンを準備して、なんとか授業を継続させることができた。ただし、土曜の午後のクラスは、講師が小学校の校長先生で、別のセミナーで、授業ができないことが多く、そのまま授業はたち切れになってしまった。一部は、他の時間のクラスに移ったが、とにかく、サバイバルできなかったのは、大きな課題である。これは、ラーニング・センターに ほとんどマネージメントがないというのが一番の問題で、先生の一人が、所長か校長先生のような立場で、マネージメントを行うことになっていて、たち切れになったクラスを立て直すよう何度か依頼したが、予想通りで、思うように動いてくれない。

各コースの経過

ミシン

・卒業者は最後まで熱心に教室に通い、一年でかなりの進歩があったとは言えるが、当初の予想通りで、材料不足のため、思うようにミシンを使う練習ができていないのが一番の課題である。例えば、近所の学校の卒業式があると、それに使うガウンの注文が入り、その間は熱心に働き 練習ができるが、普段は、練習用の材料は自前で揃える必要があり、一部の人を除くと布がなくてミシンが使えないという状況が続いた。日本からエプロンの注文があり、それを作ってもらったりしたが、まだまだ布が不足している。日本の家庭で余った布を集めて、バリックバヤンボックスに入れて送ることも検討したい。

・同じく想定どおりだが、何台かミシンは壊れ、そのうち いくらかは自前で修理したり、修理に出したりした。しかし、まだ修理が終わっていないものもあるし、現状では、壊れたら、私が対応しないと何も起こらず、誰かが対応するという仕組みを確立する必要がある。それには、金銭面の管理が課題で、一定の修理の予算を担当者に渡しておいて、壊れたら修理に出してもらい、明朗会計が実現すれば良いのだが、現状では そう簡単には回りそうにない。
修理屋は、日本に比べて格段に安いが、修理しているところを見張っておかないと、時間がかかったと騙して料金を吊り上げたり、例えばパソコンでは修理ができない場合に部品を抜かれる可能性もあるので、ミシンも同様に要注意である。将来できるはずのラーニングセンターのメンテナンス担当者が、修理屋の状況を把握して対応する必要があるということだ。

・ミシンを使えれば、台湾で雇ってもらえるということで、このコースを始めたのだが、ラーニングセンターの先生に、受け入れの窓口までヒヤリングに行ってもらった。

パソコン

・平日のコースは、途中で時間を増やし、月、水、金の午前に授業を行った。最初の頃は、講義を中心にしていたが、その後は、もっぱらパソコンを使う練習で、タイピングから始め、Officeソフトの自習用のソフトウェアを用いて、順次練習してもらった。一通り理解してもらった後、例えば、豚や牛の飼育方法などという内容のプレゼンテーションを行うといった実習を行った。

・昨年は、準備が間に合わないため、私の方では、パソコン教室は開かないつもりのところ、先生たちが勝手に沢山学生を集めてきたという事情もあり、当初はパソコンの台数が少なかった。そのため、徐々に人数も減っていったが、パソコンを増やし、最後は9台になり、人数も適度なところに落ち着いた。
土曜の午後のクラスは、先に書いたように先生が忙しいこともあり、途中でクラスは消滅してしまった。土曜午前のクラスは もう少しましであるが、それでも同様の面があり、フォローが十分ではなかったのが一番の課題である。新年度は、受講登録者を絞る予定だが、何か課題があれば、関連するメンバーが集まって話し合い、Action Planをつくり、問題を解決するという一般的なマネージメントが現状のラーニングセンターにはほどんど無くて、今後マネージメントの体制を確立する必要がある。

・平日のコースを担当していたボランティアの先生は、9月に教員採用試験を受けた。ラーニングセンターのボランティアの実績により、5ポイント加算されたが、合格点75点に対して、わずか1点未満の不足で不合格となった。4月初めに再度試験を受けたが結果はまだ発表されていない。受験は3回までということで、少なくとも次回までに合格してもらう必要がある。他の先生はDepEDに属し、国から給料をもらっているが一人だけ無給というのが、本人にとっての一番の課題だが、ラーニングセンターとしても、この先生に専属になってもらい、メンテナンスを含めたマネージメントをしてもらうのが一番良さそうで、試験に合格するかどうかは、今後、ラーニングセンターが円滑に運営できていくかどうかに、大きく影響するはずだ。

・スペイン人が中心になってセブで起したアウト・ソーシングの会社から引き合いが来ている。ラーニングセンターに仕事を発注してもらえる可能性があるかどうか 近々訪問を受け、打ち合わせをする予定である。ただし、停電も頻発する中、インターネットでの素早い回答を要求されそうであり、難しい面もある。こちらは、ある程度納期にゆとりある、まとまった仕事である。

料理

ミシンと同様で、こちらも材料がないと料理ができないのが一番の課題である。クッキーを焼いて、近所に売るようなことはしていたが、年間を通して、いろいろな料理を作って売るのを続けるのは難しく、結局一番休講が多かった。ある程度は、食材の費用をこちらで援助することにした方が良さそうだ。

ハイスクール卒業資格試験受験

・前述のように、昨年10月の試験で、シキホール島全体で57%という高い合格率を得られたのが一番の成果である。この数字は、Cebuなどを含むRegion7で一番高い数字である。

・試験の結果が良かったのは、先生によれば、こちらで買い揃えて渡した問題集が役に立ったからということであり、さらに、今後、教科書や参考書、辞書なども順次揃えていく予定である。既に一部は買い揃えているが、マニラまで行かないとほとんど売っていないというのが課題である。さらに補足しておくと、例えば中国へ行けば、都市部の本屋には、日本よりはるかに広い売り場面積で学習参考書が並んでいて、沢山売れるので価格も安い。フィリピンでは、これがほとんどなくて、買う人が少ないので値段が高い。

・教材は、前回も説明したが、例えば英語や地理、歴史などは各種のソフトウェアがあり、それを利用できる。インターネットで教材を集めてくることも可能である。私が英語学習用のソフトウェアを授業でデモすると、学生は熱心に見ている。ところが、先生に使い方を説明してCDを渡して、継続して使用するよう頼んでおいても、後で聞くと、使い方が分からないので使っていないと言う。こちらは先生のレベルを問題にしたいが、私がフォローに使う時間が足りていないのが課題とも言えよう。CDを使ってデモをするのは簡単な話なので、フォローするための助手を雇って、代行してもらうというようなことが対策になろう。

新設コース

溶接と自動車整備を新年度から開講する予定である。DepEDの先生が主体的に進めているので、こちらは必要ならサポートするだけであるが、例えば溶接では、溶接機と材料の不足が容易に想像できる。溶接機は電流の制限もあり、ラーニングセンターでは、そのままでは 1台しか使用できない。それでは、受講者が多い場合に、ほとんど練習にならないという危惧がある。パソコンの場合は最終的に9台準備したが、わずか1台の溶接機で、一体何人で授業するのが適切かということである。実機で練習するのに、一人だけ機械を使い 残りは見ているだけでは、時間が無駄である。例えば30分ごとに、入れ替わりラーニング・センターに来て練習するようなスケジューリングがあっても良いはずだが、その手のことは、先生の方は全く考えていないようで、先々の課題の検討をしていないことが心配である。教材は当面は、バランガイが保有している金属の机や椅子を使い、その中で壊れているものを修理するとのことだが、すぐに修理は済んでしまいそうである。料理やミシンのコースと同様材料不足が課題になりそうだが、現状では答えは見えていない。窓にはめ込む鉄格子の注文を受けて、それを作るという話もあるが、初心者に発注が来るか疑問である。

そうは言っても、やらない方が良いかというとそうではないので、結局先生たちの方針に従い、やりながら考えるということになりそうだ。

その他

建築の作業が いろいろ残っているが、現状では他を優先して、今年はまだ手を付けていない。必要に応じて、対応するが場合によっては、キャンセルもありうる。

・屋根や木のペンキ塗り
・バルコニー(溶接や自動車整備の実習の場所としてあった方が良い。)
・調理場の改造
・蛇口の修理
・本棚
・ドアノブまたはカギの修理
・溶接機接続のための電気工事

その他、調達が必要な物

・教科書、問題集、辞書

要修理

・ミシン


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