ラーニング・センター・プロジェクト

進捗報告 2009年9月

2009年 9月作成



ラーニング・センターでの
バルコニー拡張工事の様子(2009年8月)

概要

6月から2年目の授業が始まった。 授業が再開して、それほど時間は経過していないが、現状の課題なども含めて紹介しておく。

開講しているコースは、昨年と同じ ハイスクール卒業資格試験受験、ミシン、料理、パソコンの4コースに、今年から新たに加わった溶接(welding)と自動車整備(automotive)、全部で6コースとなった。

8月、以前から予定していたバルコニーを製作した。コースが増えて、同じ時間帯に授業が重なることが多くなり、今年から始めた溶接と自動車整備の講義は、現状では、バランガイ(村)ホールの設備を借りて行っている。できれば、他から設備を借りず、自前で行えた方が良いので、このバルコニーに机・椅子を並べて、ここでも授業を行うつもりである。
手頃な価格の材木を探して、発注し、納入が済むまで時間がかかったこともあり、選挙に合わせて帰国するという私の予定に間に合わず、ペンキ塗りなどの仕上げの作業が残ってしまった。それでも、機能的に使えるところまではできている。

開講当初は沢山人が集まっても、サバイバルという言葉が相応しいように、出席者が順に少なくなっていくというのが 昨年からの課題である。その大きな理由は、授業料は無料でも、個人で材料を買うお金がないことである。ミシンの場合の布と、料理の食材がこれに当たる。昨年度の場合、例えば 近所のハイスクールから卒業式に着るガウンの注文があったが、このように他から仕事が入れば人は集まるが、それが無いと自宅から布切れを持って来れる人だけが ミシンを使っていて、他の人は欠席か、出席しても見ているだけというような状況だった。そこで、試しに 期間限定で材料を支給することにした。

バルコニー

予定していた建築作業のうち、バルコニー作りを8月に実施した。

本年度から、溶接、自動車整備のコースも始まり、授業が増えて、同じ時間帯に複数の授業が行われる場合が出てきて、現状では、新設のコースは、バランガイ(村)ホールの別の設備を利用して行われている。授業を行う場所は できれば自前で すべて まかなえた方が良いので、バルコニーを作って、そこに椅子・机を持って来て講義を行う予定である。
溶接、自動車整備は実習が中心であり、溶接を行う場所と自動車を停めておく場所は、別途、鉄筋フレームのテントを作って、そちらを利用する予定である。鉄筋のフレームも溶接の実習の一環として製作する予定だが、すぐにはできず、まずは仮設のものを作った。

準備段階からの作業の経過を説明すると、4月から6月中旬は授業が休みで、その間に作業を進めることも出来たが、先生にも 出来るだけ参加して欲しいので、授業の再開を待った。その後、6月後半から7月は、台風・熱低の影響で雨が多くなり、結局 8月になってから材料の調達を始めた。昨年のガソリン高騰を言い訳にして、材木が値上がりし、ガソリンが値下がりしても、そのままの値段で材木を売る業者がほとんどなので、なんとか適正価格で材木を売ってくれる業者を探し、発注して、納入されるまでに時間がかかってしまった。その他にもいろいろ遅れの要因が重なり、結局、私が帰国しようとしていたスケジュールに間に合わず、ペンキ塗りなどの仕上げの作業が残ってしまった。それでも、機能的に使えるようにはなっている。

いつものように遅れる作業

以下は良い話ではないので、書かない方がよいという考え方もできるが、それでは、現実を無視しているだけであり、進歩は期待できない。改善の参考のため、削除せず載せておく。


現地の人が何もしなくても、日本人が勝手に 図面を書いて、スケジュールを引いて、材料を買い集め、大工を集めてきて、現場監督をしてくれ、知らないうちに建物が出来ている。最初はそれでもよいが、これでは、依存症を増長するだけとも言え できるだけ自助努力に期待したい。そのため、先生に建築作業のプロジェクト・リーダーを勤めてもらい、私の方は、先生のマネージメントをサポートするだけにする予定であった。

しかしながら、現実は厳しく、現状では放っておいては、何も進まないに等しい。
大工の作業が始まると 今度は大工のペースで進んでいく。それでも、雇った大工は熱心に仕事をしているので、任せておいても とんでもないことにはならない。それでよいというのは、先生たちの主張だが、私の方は、効率よく仕事を進めたい。

例えば、私の見積もりでは、初日にセメントの柱を3本建てるというのが、作業を順調に進める上で重要なポイントであった。それができないと上に屋根をつけられず、セメントは すぐには固まらないのものなので、これが大きなクリティカル・パスとなる。そこで、さっさとセメントを打ち込んでしまいたい。念のため4人雇いたかったのだが、大工を見つけてくるのを先生に頼んだところ、ふたを開けたら3人しか来ない。さらには、頼んだより1日遅れである。「柱三本、今日中に終わるか?」と、作業開始当日の朝一番に大工に聞いても、監督する予定の先生に聞いても、答えは「問題ない。」 現場監督の先生に、「もしも、今日中に柱三本が終わりそうになかったら、一緒に作業に参加して、今日中に終わらせるようにしてくれ。」と捨て台詞を残して、私は現場を去った。最初にラーニングセンターを建てた時には、私は現場でずっと見張っていて、大工が効率の悪いことを始めたら、指示を出し、釘など材料が不足しそうになってきたら 早めに補充し、遅れそうなら 私も作業に加わった。同じことを、現地の人にも期待し、それを 引き継ぎたいということである。

昼過ぎに戻ってきたら、かなり怪しい状況になっていた。まだ、何も立っていないのである。最初に監督をしていた先生は居なくなり、別の先生に代わったので、その先生にクレームをつけると、「材料はできあがっていて、あとは立てるだけなので問題ない。」と主張する。怪しいが、任せて、再び自宅に帰り、午後四時頃戻ってくると、その時間にはセメントをこねていないといけないのだが、今度は決定的で、1日で終わらないのが明らかな状況であった。先生も、「明日(オグマ、ugma)だ。」と言い出した。そうならないために、対策するのが監督の仕事のはずが、何もしていない。

なぜ1日で終わらなかったかと言えば、柱にセメントを流し込む木枠と、それを立てるための添え木が、いずれも過剰で、オーバースペックになっていたからである。三階建ての建物の柱を立てるようなやり方でやってしまったのだが、上にトタン屋根を載せるだけなら、いくらでも簡単にできるのである。「1日で柱が立つように、簡単な方法でやってくれ」と、私は朝お願いして帰ったのだが、そうはしてくれない。私が1日現場で見張っている場合には、1日で出来そうになければ、やり方を変えてもらうし、作業が遅れれば、人を増やすか、私も手伝う。しかし、ここでは バハラナ  Let it beが すべてで、何も対策せず、そのまんまである。

こんな人たちとは一緒に仕事をしたくないというのが、率直な気持ちである。

火曜日に、大工を探してもらい、水曜日から4人で作業を始めれば、4日後の土曜日には終わるだろうというのが私の見込みであった。ところが、作業を始めたのが木曜日で、しかも一人足りない。期待の一日遅れで、金曜日に何とか柱にセメントを流し込み、土曜日も作業を続けるという話になっていたが、土曜日の朝、現場に行ってみると、セメントが十分固まるのを待っているようで、その日は、誰も人が来ていない。次の月曜日になって、朝 また誰も来ないので、理由を聞いてみると、長老の大工がお腹の調子が悪いので、今日はみんなお休みだということだった。それなら残りの若手2人で、作業を続けてもらったら良いので、私は大工の家まで行って交渉すると、結局3人とも現場に来て働くことになった。大工は、もともと熱心に働いていて、その後は淡々と作業は進んだが、結局、ペンキ塗りなどの仕上げの作業を除いて、終わったのは木曜日であった。休みが入り、実働は6日。終了した日で言えば、5日遅れである。いつも使っている”順調に遅れました” という言葉の通りで、作業が終わったのを見届けて、次の週にセブに行くという予定はキャンセルした。

WBSを作り、スケジュールを引いて管理するよう監督の先生に要求しているが、「何それ? Unsa ma?」という答えから始まり、大工の作業には間に合っていない。あと付けぎみに、それらを作ってもらっていて、それをもとに反省会を開くつもりで、その結果 今後は少しでも改善すると期待したい。

各コースの経過

ミシン

・年度が替わり、新しい受講者は、一からミシンの練習を始め出している。しかし、卒業した人は来てはいけないとは言っておらず、前年からの人も、継続して出席している場合もある。例えば、自動車整備のコースで使う車の駐車場の天幕は、二年目の人が縫い合わせた。

・練習のための布が足りないのが課題で、対策として、日本で遊休品を集めてもらって、こちらに送ろうとしている。経済性から それが一番良いのかどうかは後ほど判断する。送料が安くないからである。ただし、日本から 今後も いろいろと機材などを送るはずで、その場合の箱の隙間に入れるコンポ材として、布切れを利用するのは悪くなくて、到着後 ミシンの練習の材料としても活用できる。

他にも、現地で調達できないか調べているところである。セブでも、端切れを売っている店が見つかったが、シキホール島からでは、買出しに3日かかるし、余り物なので、それほど沢山売っているわけではない。いろいろな物があった方が良いし、最終的にも、複数の経路から入手するのが良さそうだ。

・一番良いのは、Sustainableという言葉で表わせるように、ラーニングセンターで作ったものを売って、売り上げを新たな材料の購入資金にして、ループさせることである。作業した人が 少しでも収入を得られれば さらに良い。近所のハイスクールの卒業式のガウンや、日本からエプロン、その他のいくつかの注文があったが、それらの注文を処理するだけで、フル回転している状況とは言えず、現状では、材料不足の課題が続いている。

・メンテナンスの問題も継続して残っている。現状でも、日本から持ち込んだミシンが1台壊れているが、放置されたままである。1年前に日本から持ち込んだ時には動かなかったが、私は修理してくれる人を探して、代金を払って、修理してもらったので、当初は使われていた。 しかし、程なくしてまた故障して、その後は、そのまんまである。私がずっとメンテナンスを担当するつもりはないので、「自分たちで対応してくれ。」と主張しているが、なかなかそうはならない。

以前、バイクで走っていたら、蛇口が壊れて水道水がかなり漏れているところを見つけた。近所の人に伝えると、お金がないので修理できないと言う。私は家に戻って、修理のためのパッキンを持ってきて 付け替えると、水漏れは止まった。「1個1ペソ」と言って、予備のパッキンを無料で渡しておいた。水道メーターが入っていれば、こういうことにはならないが、ここでは 月20ペソの定額制であった。他にも同じような例は多い。私は怠慢の一言で済ませたいが、現地の人には彼らなりの言い分もあろう。とにかく、壊れたミシンがそのまま放置されているのも根は同じはずだ。

パソコン

・パソコンを使えるようになりたいという人は多くて、本年度もラーニングセンターで熱心に練習している人が少なくない。概要の講義の後は、昨年同様タイピングの練習から初めているが、昨年に比べ上達のペースは早くて、全員ブラインド・タッチをマスターしている。

・パソコンの台数は、昨年度末と同様、現状、合計9台である。他にも私の自宅には沢山の壊れたノートパソコンがあるが、簡単に修理できるものは無くなっていて、部品取りの対象になっていたりしている。ネットブックの影響もあり、中古ノートパソコンはかなり安くなっているので、日本での調達を再開して、フィリピンに送って、メンテナンス用も含め、台数を増やす予定である。

・その他の機材として、10年ほど前には50万円〜100万円程度していたプロジェクターが、中古で5000円程度で買えるようになってきたので、それらを入手して授業に活用する予定である。例えば、昨年度は、牛、豚、ヤギなどの家畜の飼育や 野菜の生育のノウハウをPowerpointで、まとめてもらったりしていたが、プロジェクターがあれば、プレゼンテーションの練習に活用できる。

・昨年度ボランティアで教えていた一人の先生は、去年9月の教員採用試験では不合格だったものが、今年の4月の試験には合格し、6月から採用されて国から給料がもらえるようになった。6ヶ月間は仮採用で、その後 無事本採用になるため、できるだけ多く有益な仕事をしてもらい、ラーニングセンターに不可欠であることをアピールしてもらい、そのまま本採用になるよう願いたい。

料理

ミシンと同様で、こちらも材料がないと料理ができないのが一番の課題である。クッキーを焼いて、近所に売るようなことはしていたが、黒字を続けるのは難しく、結局一番休講が多かった。ある程度は、食材の費用をこちらで援助することにした方が良さそうであり、試しに、小麦粉などを食材を支給した。それを元手に、ホットケーキ等の簡単なものから、手の込んだ料理も含め、作ったものを売りさばいて、その代金で次に必要な食材を購入し、同じことを繰り返そうとしている。パソコンで在庫、入出金を管理する予定である。

ハイスクール卒業資格試験受験

このコースは、もともとラーニングセンターを始めたきっかけである。しかし、そもそも先生の方が各地に出向いて教える、複数の生徒向けの家庭教師のようなやり方で進めてきたものであり、固定のラーニングセンターとは相容れ難いとも言える。現状では、ラーニングセンターでも授業は行われているが、近所で この試験を目指す人が、将来 軒並み合格してしまった暁には、ラーニングセンターでの授業は不要になるかもしれない。
そのため、別の場所にもラーニングセンターを建てるという案もあるが、費用対効果の観点から、モバイルで教える方に支援していくのが良さそうである。
その方向での一つの案としては、プレハブ造りのモバイル・ラーニングセンターと呼ぶ簡単な教室を作り、半年程度で順に移動させるのが有効であろう。
もう一つの案は、プロック(Purok)とよんでいる近所の人が集まって、座って話をする簡単な建物があるが、これを教室代わりに、必要な場所に順次建てていくというものである。これだと、現在のラーニングセンターを建てる費用より、1/10〜1/20程度の費用でできる。しかも多目的に使えるので、建ててもらった地元の人から喜ばれる。

溶接

・新設のコースである。他と同様DepED(Department of Educationフィリピンの文部省)に所属する先生が教えている。溶接機は、一次側が最大30A、二次側が最大200Aのものを調達してきて使っている。値段は日本円で1万円程度であり、教える先生さえ居れば、設備を揃えてコースを開設するのは容易である。
一次側が20Aまでなら通常のコンセントを使えるが、今回の溶接機は、それを越えるので、別途ブレイカーも取り付け、必要な電気工事をしてもらった。

ちなみに、フィリピンでは、外国人等大きな家に住む人なら、個人で溶接機を買ってきて、溶接工を雇って、金属の塀を作らせるような場合も少なくない。溶接機が高くなくて、溶接工も、大工を雇うのと同じように手軽に雇えるからである。

・ミシンと同様、溶接の技術を習得すれば、外国で雇ってもらえるという話があり、それを期待して受講を始めた人も多い。危険な仕事なので、外国で職を得やすそうにも思うが、ほんとうに外国で仕事があるのか調べる必要である。

・ミシン、料理と同様、溶接する対象がないと練習ができないという課題がある。
当初の予定では、バランガイ(村)ホールの金属の机、椅子を修理することになっているが、それだけでは、すぐに終わってしまいそうなので、自動車整備に使う車の駐車場に鉄筋フレームのテントをつくることにしている。しかし、それも出来てしまえば、どこかから仕事を受注してくる必要がある。
現状では、そんなものは要らないと拒否しているが、私の自宅の窓にもすべて鉄格子をはめることになりそうだ。

自動車整備

・新設コースの一つ。知事から中古の車が寄付されるということになっていて、その車を使って実習を行う予定である。

その他

瑣末な話題ではあるが、前回 建築関連等の残作業をリストアップしていたので、その後の進捗を書いておく。

項目

進捗

説明
バルコニー

ほぼ終了
ペンキ塗りなど仕上げ作業以外は終了
屋根や木、壁等のペンキ塗り

未実施
バルコニー終了後
調理場の改造

ほぼ終了
オーブンなどを取り壊し、単純化する。
蛇口の修理

終了
自宅の遊休品と取り替えた。
本棚

未実施
10月に実施予定。
ドアノブまたはカギの修理

未実施
合鍵が鍵穴を破壊した。10月実施予定
教科書、問題集、辞書の調達

ほぼ終了
容易に買えるものは購入済み。今後機会があれば、英語圏のシンガポール等で古本の教科書や学習参考書を探したい。
ミシン修理

未実施
以前に三度修理済み。現状は1台が故障中


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