近所に家を建て始めた日本人から、「２系統の水道が来ているが、どちらを選べば良いか？」という質問を受けた。水道会社というほど仰々しいものでもないが、とにかく別に管理されて、別の水源からきている二つの水道がそこには来ている。

と言っても、例えば「日本からフィリピンに行くのに、どの航空会社を使えばよいでしょうか？」という質問のように、安い方が良いのか。直行便でないと駄目か。日本のどこから出発するのか。現地の滞在日数。マイレージを貯めたいのか。その他条件によって答えは変わってくる。メールで一行で質問を送ってきて、条件が書いていないので、こちらはいろいろな場合を考え延々と答えを書いて送っても、その後お礼の一言もないので、二度と答えたくなくなるような場合がこれまで何度もあった。ここで取り上げている水道の選択の場合、答えて嫌になるようなことではないが、とにかく、同じようにして、何を優先するか　条件によって答えが異なってくる。しかし、現地では日本では考えられないことが多いので、質問者も何を条件として示したらよいのか、なかなかわからないだろうし、それをいちいち説明して、条件を提示してもらい、それから答えを出していると時間がかかる。第一、私は「結局この人は最終的には両方の水道を引くだろう。」と予想しているので、即座に、「両方引いて下さい。」と答えて終わりにしたかったし、実際にそうも言ったが、その答えただけでは、最初の質問から容易に想像できるように、納得してもらえなかった。その人の場合、当面は水道は一つで十分なので、ある条件を最優先させ、私は答えを出した。

一方の水道は、料金が非常に安いのだが、地表に出た湧き水を水源にしているので、雨が降ると雨水が混じって　水が濁ることがある。実際には私は直接それを経験してはいないが、多くの人が言っているので、たまにはそういうことがあるはずだ。その人は飲み水は、米国でよくあるような大きなポリタンク入りの水を買うので、飲み水に水道は使わない。しかし、水道水でお皿やコップなどを洗っている時に、運悪く濁った水が出て来たら　　とんでもない話であろう。ひどい水道を推薦してくれたと、普通ならクレームが来るはずだ。それで　そういうことのないもう一方の水道を引くようお奨めした次第である。しかしながら、それは簡単ではなかった。そちらの水道の担当者は、もう一方の水道を酷評するので、日本では到底考えられない　そんな失礼なことをいう水道は使いたくないと思いながら、どちらにするか私のところに相談に来られたからである。

結局、私の提案も参考にしてもらい、濁ることのない水道をその人は選んだ。ところが、もう一つ重要な条件である水道料金に大きな開きがある。たまに濁って、品質が劣る方が、当然安い。そのため、この人の場合、家も庭も出来て、乾季が来て、草木に大量に水をやって、高額の水道代の請求書を手にした時点で、もう一方の水道も引くだろうと予想した。昨年雨が少ない時期に　ドゥマゲッティの知り合いは、月数千ペソの水道代を払って、庭の草木に大量の水をやったが、それでも、沢山枯れてしまったそうだ。こちらの濁らない水道の方は、ドゥマゲッティより単価も高いし、さらに累進で高くなるので、大量に水を使う場合は、非常に高い請求書が来る。もう一方の水道の方は、他方と比べかなり安いのはわかっているが、最近担当者に正確な料金を問い合わせてみたが、実際にも　かなり安い。これでは、どうして高い方を勧めたのかと、またクレームが来ても困るが、これまでの説明で納得してもらえるものと期待したい。
料金に差がある大きな違いは、一方は水をポンプで押すので電気代がかかるのに対して、もう一方は水源が高所にあり、位置エネルギーだけで、水を運んでいるので電気代がかからないという点である。他にも組織の大きさによる人件費の違いなどもあろう。

他にも　いろいろと差があるので、一通り表にまとめておく。

水道の比較

名称	Metro Siquijor Water District	KALAHI
供給形態	家庭やビジネス用途へ、個別に供給する。	近所のクラスター単位で、蛇口を共有するのが基本。 家単位の供給もあり。
スポンサー	JICA	World bank
水道料金	高い 基本料金　〜10立米　P150 11〜20立米 @P22.5 21〜30立米 @P25.5 31〜 @P28.75	安い 基本料金　〜12立米 P40 それ以上 @P4
水の濁り	特になし	雨が降ると濁る場合がある
水圧	KALAHIよりは強い	弱い
塩素	使用している。	使用している。
運営組織	大	小
供給状況	停電すると止まる。	年に1度、水源のタンクを掃除する時に供給を停止。その後パイプに空気が入り、供給に影響する場合あり。
水道メーター	水が逆流しても、メーターは正方向に加算される。	自前で調達する。

この表の比較が有効で、これらの二つの水道が来ている地域というのは、非常に限られている。ここで説明したことは、シキホールに住もうとしている人に、この情報をもとに水道を選択してもらうことではない。シキホール島だけでも、地域ごとに、いろいろな水道があり、それらを検討する必要があるし、田舎で水道がないので、井戸を掘ったら水が出そうかどうか、土地を決める時に、考えないといけない場合もあろう。
ここでの話は、雨が降ると水が濁るかもしれないとか、しょっちゅう停電する中で、そのたびに水が止まるとか、日本では思いもよらないようなことも、場合によっては考慮する必要があることを分かってもらうための事例として取り上げた。