100万円の家と1000万円の家

2004年 4月


100万円の家

1000万円の家

フィリピンに家を建てる場合の参考として、シキホール島にある100万円の家と1000万円の家を比較してみる。

最初に断っておくが、それぞれのオーナーに ここで取りあげる許可をもらっているわけではないので、万一クレームが来れば、一部書き換えるかもしれない。

二軒の家は、どちらも日本人がオーナーである。

100万円の家

この島に永住予定の元青年海外協力隊員が建てた家である。床が正方形の総二階なので、一番効率が良い建て方と言える。1辺が約10m。建坪は200平米ほどある大きな家である。
この広い家が100万円とは、とても安く建てられたものだと感心するが、それでも一階の床はすべてタイルが敷いてあるし、床だけで100袋もセメントを使っているなど、材料をケチった手抜き工事というようなことはない。

安さの秘訣は、

・オーナーが現地の言葉に堪能で、自分ですべて管理監督している点
・構造が正方形で総二階という点
・二階が竹やかやぶきという現地の材料を使っている点

以上が大きい。他にも、大工の日当が150ペソと、現地相場と同じく安いことも大きいのだが、その安い賃金でも、大工をうまく働かせているのは、オーナーが現地の事情を熟知していて、しかも言葉も堪能である点がポイントだ。

一階は、便所を仕切ってあるだけで、ほとんど一部屋であり、とても広い。壁がないのは、安くあげるのにも一役買っているが、沢山人が集まるのに便利だし、風通しも良好で、居心地が良い。日本だったら、暖房が大変だといったことになったりするが、熱帯のフィリピンではその心配もない。100点満点と言いたい。二階は寝室であり、部屋が分かれている。

また、屋根は ニッパやサクサクとか呼ばれる茅葺なので、日中 日が当たっても涼しい。屋根の葺き替えなどメンテが必要だが、安く建ててあるので、それぐらいは良しとしたい。

土地は 100万円には含めていないが、1ヘクタール以上の土地を15万ペソで購入したとのことである。1平方メートルあたりだと10ペソ余り。外国人価格でなくて、現地の相場で土地を手に入れた例と言える。5年以上前で、為替レートでみると現在よりペソが倍程度の値打ちだったそうなのだが、それでも破格の安さだ。

1000万円の家

こちらは まだ建築中だが、この家の近くの人や、乗り物のドライバーたちによると、500万ペソとのことである。完成していないのに値段が決まっている点、家のつくり、広さ、値段、建築中なのにオーナーが長期で不在な点などからして、こちらの工務店にあたるエンジニアに、パキヤウ(Pakyaw, Job発注、一括請負)したのであろう。

建物の広さは、玄関やバルコニーなどを どこまで加えるかによって変わってくるが、とにかく、二軒の家は 同じくらいの建坪である。
ちなみに、日本の場合だと、壁で囲まれた内部だけで、広さを計算するが、フィリピンの場合は、壁がなくても、屋根のあるバルコニーなどは建物の面積に加える。フィリピン流に計算すると、1000万円の家の方が少し広くて、日本流だと100万円の家の方が少し広いことになりそうだ。

1000万円の家の方が、高い建材も使っているし、立派な家で、当然値段が高いのは分かる。しかし、100万円の家に比べて、10倍も高いのが適正かと言うと、甚だ疑問だ。100万円の家の3倍程度の費用で、この家は建てられそうである。

それではなぜ、一桁の値段の差ができてしまうのか?

答えはエンジニアが儲けているということである。ここでいうエンジニアは、日本で言うと大学を出て一級建築士の資格をもっている人で、フィリピンではエンジニアが工務店をしていて、家の建築を一括で請け負う。

日当いくらで働いている大工の家は大抵あばら家で、家の建築を一括で請け負っているエンジニアの家は、豪邸である。
エンジニアに頼むと高くつくので普通のフィリピン人は、自分で大工を雇ってきて、材料も自分で買ってきて家を建てる。
以上はシキホール島に限らず、フィリピンのどこでも共通している。
エンジニアが請け負った豪邸を見つけて、エンジニアがつけた値段と、大工に見積もらせたり、自分で見積もった値段を比較してみると、ここで取りあげている1000万円の家の例のように、大きな乖離が出てくる。

以上の状況からも分かるように、フィリピンでは「エンジニアは高い」というのが常識である。

それでも、エンジニアに頼むと いろいろメリットもあり、お金持ちはエンジニアに頼むことが多い。メリットとは、
・一括発注なので、後から費用がずるずる増えることがない。
(実際には、後から手直しで、他の大工を雇うことが多い、といった噂もある。)
・お金や、大工、部材、工数等の管理をエンジニアに任せるので、自分は建築に
関わらずに済む。そのため、外国に暮らしているが、将来フィリピンに暮らすための
家を建てておく場合には、特に便利である。
・フィリピンの大工はセミプロのような人が多く、大きな家を建てた経験のある人物を
探すのは、特に田舎では難しい。その点、エンジニアに任せておけば、大きな家
を建てる場合でも、安心である。

しかしながら、特に外国人がエンジニアに家の建築を頼むと、典型的な外国人価格になってしまい、法外に高くなる(私に言わせるとこの言葉が最適だ)。請求額をそのまま受け入れ、エンジニアに頼む人が多いと、相場はどんどん釣り上がっていく。
外国人価格で土地の値段が釣り上がっていき、後から来た人が、もはや手頃な値段では土地を入手できなくなるのと同様の懸念が、家の場合も起ってくる。

豪邸に住むリスク

フィリピンに高価な豪邸に住むのは、いろいろなリスクを伴う。他人の嫉妬、誘拐される可能性、税金関係等。また、フィリピン人と結婚した人なら、配偶者の家族・親戚から、何かにつけお金を貸せ、出してくれと言われる可能性も、豪邸の持ち主なら当然高くなる。
そんなことはほとんどないと思いたいが、日本人がフィリピン人と結婚して、豪邸を建てた後、持ち金が無くなり、日本人は用無しになって、フィリピン人妻の兄弟に殺害されたなどというようなことにはなりたくない。

豪邸を建てるのは個人の自由だが、リスクを認識して、それを回避する方法も検討しておいた方が良い。例えば、カムフラージュのため外側は あばら家にして、内装だけ豪華にするというようなことが、あるかもしれない。

ただ、田舎で治安の良い地域に住んでいれば、いくら豪邸のオーナーになったからと言っても、凶悪犯罪に巻き込まれる可能性は、ほとんどないことだろう。例えば、私が以前住んでいた下宿屋は、この1000万円の家の二倍は広さがあり、まさに豪邸だが、ドイツ人の夫と、フィリピン人妻の夫婦仲は悪くないし、金持ちだと言って犯罪に巻き込まれたこともない。


1000万円の家と言えば、日本だったら平均よりも安いくらいだが、フィリピンでは十分豪邸である。比較の例として、私の隣の家の場合を紹介しよう。
隣人は、雨漏れがして 吹けば飛ぶようなあばら家に以前は住んでいた。雨の日には、家の中で私のビーチパラソルが活躍するような状態だったので、隣人は、風が吹いて家が飛び、ホームレスになることを恐れ、私に土地を少しだけ売って、それで家を建て替えることにした。その時の予算が3万ペソであり、私は土地の代金として3万ペソ払い、それで お隣は小さな家を建てた。実際には3万ペソでは足りてなくて、こちらに、費用の火の粉が降ってかかってきたのだが、いずれにせよ、この程度の金額で家を建てようとする人が多い。
私の方は、手頃な値段で土地を売ってもらっているので、お隣よりも大きな家を建てることは、非常に難しく、その結果、ほぼ同じ大きさの家を建てた。追加で屋根裏部屋を作った程度である。ただし、実際には、これでも、私が住む分には十分な広さである。

最後に、参考までに、現地の普通の人が家を建てる手順を、もう少し詳しく書くと 以下の通りである。
 1.安く図面を書いてくれる人を探してきて、その人に設計してもらう。
 2.自分で大工を探してきて、
 3.図面を元に棟梁格の大工に材料の見積もりをしてもらい、
 4.建材屋に買いに行く。
 5.建材が揃えば、自分で管理、監督しながら、日当いくらで雇ってきた大工に
   家を建ててもらう。
 6.ところが、予算に見合わない大きな家を建てているので、途中で
   お金がなくなり、大工の日当が払えなくなる。建材も足りなくなる。
 7.そのため、"Next time na lang."と言って、工事は中断する。
 8.しかしながら、屋根と壁はあるので、ビニールなどで、窓の部分を
   仮に覆ったりして、とりあえず、その家に住み始める。

これが田舎によくあるパターンである。
ダバオの田舎で 工事中の家に住む知り合いは、
「次の収穫で現金が入ったら、もう少し家の工事を進める。」
そう言っていた。
寒くないので、屋根さえあれば、とにかく住み始めることができるというのかミソであろう。


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