フェンス

2006年 3月


竹の簡単なフェンスだが、海に出ようとすると、場合によっては、遠回りを余儀なくされる。 満ち潮では、このフェンスの端まで、海水が来て、海沿いに人が歩くのを妨害している。この地域では、海岸での建築許可は下りない。これは、違法なフェンスである。

外国人がフィリピンで土地を入手すると、まずはフェンスを作ろうとするはずだ。自分の権利を守るために当然のことだということだろうが、私は、まず このこと自体ちょっと待ってくれと言いたい。最終的には、フェンスをつくるとしても、その前に回りの状況を十分確認して欲しい。フェンスができたことで、不便になる人がいる可能性が少なくないからだ。「いらぬお世話だ。そんなことを言われる筋合いは何もない。」と反論されれば、こちらは、説明して、説得しようとするだけで、それを止めさせるような権利は持ち合わせていない。それでも、フェンスをつくる前に、十分検討してくれと言いたい。 ただし、これはフィリピンの田舎にあてはまる話であって、都市部では、必要な道も当然あり、十分検討された上で区割りされているので、フェンスを作っても、特に問題は起こらないはずだ。土地を買えば最初からフェンスがあることも多いだろう。

私の家の隣の土地の例である。さらにその隣の土地は、フィリピン系米国人が所有していて、当然のように自分の土地を大きな塀で取り囲んだ。これらは すべて同じ公道(バランガイ・ロード)に接している。米国人の土地の裏側に別の人が住んでいるが、その家の土地は、Mid Lotと呼ばれる公道から離れた土地である。私の家の隣の土地が 現状では空き地なので、米国人の裏側の土地の住人は、その空き地を通って外へ出掛ける。しかし その空き地は地主が売ろうとしいて、先日スイス人がその土地の購入を検討して、現地にやってきた。外国人が土地を買うと、フェンスをするので、通れる道が無くなってしまうのではないかと、裏の住人は狼狽した。

結局、土地は売れず、事なきを得たが、この空き地を通行している多くの人から、「外国人」=「来ないでくれ」と、今も思われている。

他の例を紹介する。海沿いの舟の出し入れに便利なところには、大抵漁師が小舟を泊めている。小舟の場合は軽いので、陸にあげてそこに置いてある。フィリピン人の以前からの地主なら、そういう漁師を占め出したり、土地の使用料を要求するような話は聞いたことがない。魚が沢山取れたら、漁師が地主に 魚を少し分け与えることがある程度だろう。
そういう場所を外国人がリースしたりするとどうなるか?当然のようにフェンスをつくり、下手をすると漁師は全面的に占め出される。そうすると外国人の評判が悪くなるのは必定で、近所のとの間でさまざまなトラブルが起こる可能性が非常に高くなる。

フェンスの外側でも問題が起こる場合がある。シキホール島に住んでいたスイス人は、ビーチ沿いに土地を入手し、竹のフェンスでその土地を取り囲んだ。海沿いの砂浜の部分は、フェンスをするのは難しく、フェンスの外の砂浜にも、一部自分の土地があった。そこに、漁師が舟を泊めたので、このスイス人は怒って、舟を持ち上げて地面にたたき落とした。そんなことをしたら、周囲の住人ともめるのは必定である。ハマスのように石を投げてきたりとか、さまざまなトラブルが起こり、結局、このスイス人はフィリピンを去ることになった。ちなみに、土地と家が約1000万円で売りに出ているそうだが、私に言わせれば、ちょっと場所を変えるだけで、8割の値打ちのものが100万円でできるはず。とてもお買い損だ。この場所の周辺には外国人が多く、そこだけ地価がつりあがっているのである。

海沿いの土地については、満潮の海岸線から20mまでのところを、サルベージ・ゾーンと呼び、さまざまな条件をつけているので、簡単にはフェンスはできないはずだ。サルベージ・ゾーン内の建築に関しては、フィリピンだからと言いたいが、地域によって取り扱いがまちまちだ。私の住んでいる隣の地域では、そこの役所の担当者の方針で、サルベージ・ゾーンには、建築許可を出さないそうだ。フェンス設置許可(Fence Permit)も当然出ない。これに対し、私の住んでいるところでは、私の住んでいる家と、小さなコテージの2件で、サルベージ・ゾーン内でも建築許可は下りた。
インターネットで検索した別の地域では、サルベージ・ゾーンに建物を建てると処罰されるという条例の条文が掲載されていた。当然フェンスも含まれる。

とにかく、海沿いの土地にフェンスをつくるのは、多くの問題を抱えている。それでも、例えばセブ島のように、フェンスや家で、海沿いを歩くことができなくなっている場所を多く見かける。

海岸沿い以外の例を取り上げておく。世銀から予算が付き、水道設備が改善され、私の住んでいる地域にも、ほんのわずかだが、水道が来るようになった。水量も 予算も不足しているので、近所で1つの蛇口を共有するクラスター方式である。
ある日、頼まれたので 私も配管を手伝った。パイプは高いので、できるだけ、まっすぐ配管したいのは当然である。荒地や畑を突っ切り、目指すクラスターへとパイプをつないでいった。しかし、途中の大きな土地にフェンスがあり、役所のエンジニアは、そこは迂回すると言い出した。地主がうるさくて、パイプを通させないそうである。他の地主は、地域を挙げて取り組んでる水道のパイプを通すのに盾を突くことなどない。荒地や畑なので、通常フェンスもない。
日本なら、例えば電力会社が、他人の土地の上に、送電線を引く場合、地主から地上権を取得し、使用料を払うというようなことになるだろう。営利目的なら当然のことだろう。しかし、私が住んでいるような 貧乏な地域の住民の共有の水道を引くのに、一人だけ、自分の土地にパイプを通させないというは、どう考えても わがままだ。「そんなことを言う地主に水道を使う権利無し。」と言ってやりたい。
私もこのプロジェクトに十分貢献したとは言いがたいが、パイプが足りないというので、私の持っていた600mほどの樹脂のパイプを、このプロジェクトに貸し出した。フィリピンなので、貸したものは帰ってこないだろう。

フィリピンの田舎で、皆が土地の周辺にフェンスをしてしまうとどうなるか?
適当に土地を区割しているだけなので、多くのMid Lotの人たちは、ヘリコプターを買うしかしかたないだろう。しかし、フェンスを作った人が、Mid Lotに住む住人にヘリコプターを買えという権利など、当然存在しないはずだ。
日本でも、民法210条で「公道に至るための他の土地の通行権」は保障されていて、当事者間で地役権を設定して、最終的に 公道に出られるようになるはずだ。

外国にいる感覚でフェンスをつくると、誰かの邪魔をする可能性が非常に高い。
フェンスをつくるにしても、隣の土地との境界を道にするとか、何か対策が必要だろう。

フィリピン人は、Short cutが好きだ。やたらと近回りしたがる。フィリピンの田舎では、家の数nに対して、うまく表記できないが、その組み合わせで、n(n-1)/2通りの道ができると言っても良いくらいである。実際には、周りの5, 6軒の家だけとの間で、3角形をつくり、その辺が道だというモデルの方が近いかもしれない。それだと3n程度になるが、これでも非常に多い。私の家の敷地は広くないが、それでも、近所の人が、自由に通り抜けていく。私の場合も、近所では道が人の家のすぐ横を通っていることが多いので、そこを通り抜けて、次へと歩いていく。

ここまでに書いたことを読めば容易に分かるように 私はフェンスは嫌いで、囲い込んで要塞化するのではなくて、自由に近所の人がやって来てくれた方が良いと思っている。そのため、今のところ自宅の周りにフェンスはない。しかし、それで完全にうまくいっているかと言うと そうではない。ごく少数の問題人物が、話を難しくしている。家の敷地内で、小物をいろいろ盗まれていて、悪戦苦闘しているのが現状だ。例えば、外灯を勝手に持っていくので、壊れた電球をつけて、早く盗んでくれと思って待っている。少年少女探偵団も雇っているが、なかなか成果を挙げてくれない。

自分自身が、フェンス無しでうまくいっているとは言い難いが、それでも、「フェンスを作る前に、周りの人のことも一考していただきたい」と言いたい。

フィリピンの田舎では、1000坪、1ヘクタールといったように 敷地が大きい場合が多いが、広大な敷地全体にフェンスをするのではなくて、建物の周囲の必要な部分だけに、洒落たフェンスをつくることをお奨めしたい。ビーチリゾートで敷地が十分にあるところでは、コテージごとに感じの良いフェンスをしているところも見かける。

米国などでも、自宅の庭を一般に公開していて、自由に入れるようにしているところは少なくない。フィリピンでも、こういうことをするオーナーなら、周囲と問題を起こさず、うまくやっていけるはずだ。


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