土地のサブマリン相続人問題

2009年5月作成



以前にも紹介したことがあるが、フィリピンの特に田舎で土地を買ったり、リースした場合に、契約書には含まれていない地主が あとから現れ、新たな支払いを求めてくることが少なくない。死んだ昔のオーナーから名義の書き換えが済んでいなくて、相続人が複数存在し、その一部が契約書にサインしていないということである。大抵は詐欺で、日本の感覚なら、自分が善意の第三者で、登記も済ませてしまえば安心と思うが、フィリピンではそう単純には済まないことが多い。

私のよく知っている日本人も二人が訴えられている。そのうちの一人の日本人の場合は以下の通りである。
地主の息子と称する男性が現れ、その日本人の買った土地は、以前は自分の父親にも相続の権利があったのに、勝手に売られてしまったので、お金を払うか土地を返すかというようなことを要求してきた。

日本人は相手にしなかったが、その後、それぞれの当事者に誤解があったことが分かり、該当する土地は、日本人の買った土地ではなくて隣のドイツ人の土地であることが判明し、この日本人には不幸中の幸いであった。日本人は、もともと一つのロットが分筆されて、ドイツ人の土地と自分の土地になっていると聞かされていたので、自分も関係あると思っていたが、それは間違いだったことが後から判明した。しかし、この日本人は、そのドイツ人の土地を通行しているので、それについて訴えられた。ドイツ人の土地を通らないと車で自分の土地に入ることが難しくなるので、敗訴すると困ったことになる。

訴状には、ドイツ人が土地を買った当時の契約書が添付されている。それによれば、以前は土地の名義は、元地主の死んだ親の名前のままになっていて、娘姉妹二人が土地を売り、契約書には、自分たち二人しか相続人はいないと書いてある。しかし、実際には、もう一人兄弟がいて、その息子が代理人となり訴訟を起こした。時効を10年と思って たっぷり10年近く寝かしたとしか思えないようなタイミングであり、それだけでも非常に怪しい。日本人は、自分の土地に十分大きな家を建て、3年ほど前からそこに住んでいる。 私は沢山お金を持っていますよと、言わんばかりの大きな家を建てなければ、訴えられることもなかっただろうとも言えるし、そんなことを言っていては何もできないので、不正には徹底的に対抗すべきだとも言える。私の方も、今回の裁判では、弁護士との打ち合わせに同行したり、いろいろサポートしている。

外国人とフィリピン人が裁判で争っても、外国人は勝てないという噂がある。しかし、この日本人は、以前に別の詐欺に遭い、裁判で被告のフィリピン人女性を刑務所に送り込んだという実績を持っていて、外国人も裁判に勝てることを実証してもらっている。私の方では訴訟はしていないが、土地以外でいくつか事件は起こっていて、牛を勝手に売ってしまった悪党とか、捕らえた泥棒などを連れて警察で打ち合わせをして、「神のご慈悲で今回は起訴しないが、、」と書かれた契約書を作成してもらっているが、この人の実績が、再発防止の抑止力になっている。

土地の話から逸れたので、そちらに戻すと、もう一人の日本人の場合は、十分時効が成立するかなり古い書類を元に、土地の権利を主張してきた原告団と、その土地の一部を買った多くの被告との集団訴訟に巻き込まれた。詳細な内容は聞いていないが、先祖に土地の権利があり、自分も相続人の一部で、それを後から訴えたということは間違いないはずだ。多分勝訴になりそうだということだが、裁判は長引くので、折角の海沿いの土地に、何も建てられないということである。

他にも、外国人の知り合いから、自分も失敗したので、この問題には気をつけた方が良いという忠告を受けたことがある。


高い測量費が土地の相続を阻害している

Tilteのある土地でも、Tax declarationのみの場合でも良いが、とにかくその名義人が生きていて、その人から直接土地を買えれば問題ない。しかしながら、特に分筆のための測量が高くつくという問題があり、相続の手続きは行われず、死んだ化石のようなじいさん、ばあさんの名義のままの土地が、フィリピンの田舎では非常に多い。測量は、シキホール島の場合では、十数年前までは、行政のサービスで無料で行ってくれていたと地元の人は言っている。それが、7、8年前には既に高騰していて、例えば子供が10人で、土地を10分割しようとした場合、分筆後のロットの数だけ、費用を掛け算で請求されるし、境界標の数でまた追加で請求されたりして、現地の人が普通に払えるような金額でなくなってしまった。ビーチロットならば、外国人のマネーゲームで、桁が上がってしまったので、測量の費用は相対的に問題にならないが、片田舎の普通の土地なら、もともと地価は非常に安いので、分筆して小さな土地を買おうとでもしたなら、下手をすれば、測量の費用の方が高くつくことになりかねない。
土地を担保にするので、金を貸してくれと、以前 頼まれたことがある。貸しても返って来ないのが普通なので、普通は、借金依頼はお断りだが、土地を担保にすると言っているので、実験的な意味合いで、その土地の一部をリース契約することにした。15000ペソ必要だということだったが、それをリースの代金とし、返済が要らないようにした。こちらは、コテージを建てる広さで十分なので、一部分の450平米だけ、25年のリース契約を結んだ。ほんとうにコテージを建てるかどうかも分からないし、この値段では、追加で測量の費用など払う気がしない。面積だけ決めて、場所はこちらのお好み次第といういい加減な契約を結んだだけだ。

名義人から直接土地を買えれば、それに越したことはないが、それができない場合は、相続人全員に契約書にサインしてもらうということであろう。先の日本人の場合、姉妹二人が土地を売ったが、契約書には、相続人はこの二人だけと書かれている。後から登場したもう一人の兄弟は、私はそんな売買があったことなど、ずっと知らなかったと当然主張するだろう。この例は、他のいろいろな状況を踏まえ、限りなく怪しいが、とにかく、相手が騙そうとしている場合には、必要な全員のサインを集めたなどという口からでまかせが登場することだろう。

Family tree

以前、私は近所で三世代前の名義のままの土地を購入しようとしたことがあった。その時、契約に どういう人々が関係するのか知るために、Family treeを書いてもらった。その情報を元に、一部の相続人から土地の一部分を分筆して購入しようとしたわけだ。このFamily treeに間違いがなかったかどうか検証できていないが、とにかく、死んだ名義人のままの土地を買わざるを得なくなった時には、分筆するしないに係わらずFamily treeを書いた方が良い。例えば死んだ親の名義の土地を、多くの子供全員から買うような事例は少なくないはずだ。その場合には、子供のうち何人かは既に死亡していることも多く、その子供たち、即ち相続の権利のある孫まで全員漏れなく含まれているかというようなことに注意が必要であろう。Family treeは、そのような場合の確認に役に立つ。それぞれの家系の代表一人で十分だという意見を聞いたこともあるが、そうではないであろう。Family treeを作って関係者に見せて回れば、誰かが間違いを指摘してくれるかもしれないし、騙そうとしている人がいても、他の親戚の誰かがポロっと正直に言ってくれるかもしれない。


次に時効の話をする。

まず、インターネットで見かけた事例から始める。亡くなった親の土地を、姉と外国に住んでいる弟が相続した。弟の知らない間に姉が勝手に土地を分筆し、値打ちの高い方を自分のものにして転売してしまったという事例である。例えば、ビーチロットを海岸線に垂直に分筆するならもめにくそうだが、海岸線に平行に分筆して、その海岸側の方を姉が勝手に自分の土地にして売ってしまったら当然もめるだろう。この弟が不動産関連のサイトに相談を持ちかけたもので、どう決着が付いたかは書いていなかったが、ちょうど時効が成立する頃になっていて、回答では主に時効のことが書かれていた。外国に住んでいることも、時効の期間に影響してくる。

今回の話題と関係しそうな土地関連の時効を以下に挙げる。

Extrajudical Settlementの場合の時効

被相続人の死後 普通なら相続人は、土地を分筆して相続するが、相続人で協議して、所定の手続きに従い、そのまま土地を売ってしまうこともできる(Extrajudical Settlement)。この場合の意義申し立てに対しての時効は2年となっている。  Rule of court Rule 74
最初に挙げた日本人の例では、隣のドイツ人の土地売買の契約は、Extrajudical Settlementを使って行われたので、すでに時効が成立しているだろうという見込みである。

一般的な土地の時効

取得時効は、日本では、善意が10年。悪意は20年と決まっている。
これに対して、フィリピンでは、弁護士によると、善意が10年。 悪意は、タイトルありが30年、タイトルなしのTax Declarationのみの土地では20年とのことである。


参考までに、別の弁護士から、国有地に何年住み着けば、自分の土地にできるかとう話を聞いた。答えば、亡くなった親が住んでいた期間なども含めファミリーで50年とのことであった。悪意のタイトルありの30年と矛盾するようにも思うが、国有地の場合は長くなるということのようだ。しかし、30年と、50年で矛盾するようにも思うし、こちらは確度100%と言い難い。誤りが見つかれば訂正する。


自分の権利が守れるように時効が成立すれば、今回取り上げた問題に対しては、なんとかなりそうだし、他にもいくつか対策のノウハウを挙げた。しかし、相手がこちらを騙そうとしている場合には、厄介なことになり、この問題の特効薬を見つけるのは難しそうである。知らない間に、自分も権利がある土地を売り払われてしまったという気の毒な場合もあって、それと悪意の場合を見分けるのは難しいはずだ。

対策として、人によっていろいろな意見がありそうだが、私の意見としては、土地は財産とは考えず、単なる消耗品と同じくらいに考え、土地に大金をつぎ込まない方が良いということである。ここで挙げた問題以外にも、二重売買や権利のない人物が勝手に土地を売ったり、フィリピンでの土地売買は問題が多い。シキホール島では現状では犯罪と言えるような怪しい取引は多くはないが、ボッタクリは横行している。以前にも紹介したように、私の家の3つ隣の土地は、15万ペソのはずが、土地を買ったオーストラリア人はその3倍以上をエージェントに支払っている。日本人である私が土地を探しているなどという噂が流れると、あっと言う間にエージェントたちが駆けつけてくるという事実が、すべてを物語っている。
家や土地にお金をかければ、かけるほど、訴訟に勝った時の見返りも多いと期待できるので、訴えられ易くなることだろう。豪邸が建つとそれを目印に親戚や知り合いがお金を貸せとやってくる。借金依頼に耐え切れず、嫁も捨てて、逃亡してしまった人の話もある。堅く扉を閉ざして、貧しい人とは付き合わないというような、私にすれば、悲しい事態もよくよく耳にする。
これに対して、家や土地に大金をつぎ込まなければ、その手の問題も少ないはずだ。万一問題が起こっても、そこは見捨てて、別に移ってしまえばよい。
しかしながら、そうは言っても日本人なら、折角安いのだからと、広い土地と大きな家に憧れる人は少なくないことだろう。その場合は、覚悟を決めるか、相当の対策が必要であろう。



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