ニッパのピッチ

2007年4月



ニッパのピッチが細かく、屋根が分厚くできているので、長持ちする

ニッパのピッチが粗く、3、4年で穴が開きだした屋根


これまで、ニッパ・ハット(nipa hut)と呼ばれるフィリピン式のかやぶきのコテージを、試しに幾つも建ててみて、建物の年数も かなり経過した。その経験を踏まえ、ニッパ・ハットを建てる場合に注意した方が良い ニッパのピッチについて紹介する。上の写真のものは、値段が高めでサクサクと呼ばれているが、ここでは、よく使われるニッパという名称を使う。

隣の米国系フィリピン人の家では、ニッパのピッチが粗くて、4、5年であちこち雨漏れしだして、7年ほどで家は朽ち果て、無残な姿になって、取り壊されてしまったという事例がある。

この家のようにならないため、現地の大工が通常使う数に比べ、相当ニッパの数を増やし、ピッチを細かくした方が、屋根は長持ちする。

日本でも、白川郷の合掌造りなどは、とても分厚い茅葺である。雪深い場所なので、フィリピンのようなものでは、すぐに壊れてしまうのは自明だが、とにかく、分厚いお陰で、葺き替えは数十年の単位である。

ニッパ・ハットを前にして、「この屋根は何年もちますか?」と、質問を受けることが多い。その答えは、私に言わせると「ニッパのピッチの関数」である。 ニッパをふんだんに使えば、屋根の耐用年数は数倍長くなる。

これを読んで、私もそうしようと思う人は少なくないと期待するが、 自分で調査して、ニッパの総数と、ピッチを計算して大工か監督か業者に指示しないと、これがなかなか実現しない。それをやっても、上の右の写真のように、大工が自分のペースで勝手に屋根を葺き、終ってみたら、ニッパの三分の一が残ってしまったというようなことも起こり得る。(さらに、面白いのでおちを書くと、予定外で余ってしまったニッパを、メンテ用に、この屋根のある近所の人の家に預けておいたところ、予想どうり 使い込まれて、無くなってしまった。)

波打ち

ニッパは、上下の方向だけでなく、横方向も重ねる場合が多い。この場合、ニッパをふんだんに使うと、横方向の重なりに対応して、ニッパの分厚いところと薄いところの差が大きくなり、大きな波を打つ。この対策としては、奇数段と偶数段で互い違いにずらして、ニッパを置いて、横方向には重ねないようにすれば良い。こうすれば、横方向に重ならず、しかも 雨漏れしない。この配置はフィリピン式のブロックの積み方と同じである。一部分ニッパを切って調整する必要があるが、ニッパの数を節約できるし、見た目も良いので、この方法がお奨めである。屋根の幅をニッパ4.5枚分というように、整数倍に0.5枚分追加しておけば、ニッパを半分に割ったものを、偶数段、奇数段で1つ1ずつ使って、効率よく配置できそうだ。しかし、フィリピンのことなので、思惑通りに事が運ぶか疑問がある。納入されたニッパの長さが 注文したはずのものと 少し違っていたということは十分起こりそうだ。


異論もいくつか考えられる。

「安くて、簡単に建てられるニッパ・ハットなどは、適当に造っておき、4、5年もすれば、また別の場所に新しく建てた方が、住む場所もいろいろ試せるし、新車をすぐに乗り換えるように、いつも新しい家に住むことができて新鮮だ。」 

この意見には、私もある程度賛成だが、前に建てたニッパ・ハットが潰れなくても、別にまた建てれば済む話で、前の建物が残っていれば、別の人が使える可能性もある。
わざわざ 潰れやすい家を建てるというのは、早期の建て替えのきっかけを作ってくれるというメリットに留まり、贅沢なやり方と言えるだろう。

「どうせ台風が来たら飛んでしまうのだがら、頑丈に作っても仕方がない。」

台風が頻繁に来る場所ならそのとおりだが、そういうところには、そもそも、ニッパ・ハットは向かない。反対に、ダバオなど台風が来ないと言われている地域では、貧しい人々の建物は、とても粗末である。それでも、雨風がしのげれば、暮らしていけるのだろうが、そういう人こそ、屋根のニッパだけには、沢山使った方が家が長持ちして、経済的だ。

「ニッパを沢山使えば、その分高くつくので、あとから葺き替えても、全体としてみれば、費用はあまり かわらないのではないか?」

耐用年数はニッパのピッチの関数だと書いたが、ニッパを二倍使えば、耐用年数が二倍になるのか三倍になるのか、これを、定量的に示すために検証実験をしている暇な人物は、たぶん居ないだろう。私の場合、家の建て方、材料などを、毎回いろいろ変えて試しているので、ニッパのピッチもいろいろ試しているが、その程度のことで、定量的ことを言えるデータなど持ち合わせてはいない。経験的なことが言えるだけだ。ただ、上の写真を比較するだけでも、現地の通常の大工のピッチに比べ、二倍のニッパを使えば、耐用年数は二倍をはるかに上回ると現状では見ている。
ただし、これには、さらに反論が可能で、「穴の空いた一部分のニッパだけ交換してやれば良いので、メンテに必要なニッパの数はそんなに多くなくて済む。」 こういう意見も出るかもしれない。それも考慮して、ニッパを最初からふんだんに使うか、現地の通常仕様で済ませるか、どちらが経済的か、定量的に検証することなどは、至難の業で、それは、とても暇な人のやることであろう。

それよりも、ニッパに穴が開いて、雨漏れすると、家はすぐに駄目になるし、電化製品が濡れたら大変だ。たびたびメンテするのも大変だ。 これをもって、最初からふんだんにニッパを使う方が良いという結論に導きたい。


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