ボホール島の隆起

2014年 1月作成
2018年6月更新


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隆起でできた海岸の陸地(2014年1月)

水際から陸側を見た眺め
場所にもよるが、広いところで400m程の幅で
陸地が増えた。(2014年1月)

2013年10月のボホール大震災で、タグビラランから20kmほど北上したLoon辺りでは、土地が2mほど隆起し、その証拠にこれまで海の中だった遠浅の海岸にかなり広い陸地が誕生した。

波打ち際はよくあるように、岩が転がっている。
時間が経てば、波でサンゴの死骸の岩が砕け砂になり砂浜になっていくのだろう。(2014年1月)

震災から約2ヶ月半が経過したところだが、既に新陸地には、漁師の小屋が立ち並び、集落と呼べるようなものが形成されつつある。これまでの海岸線には、その手の建物はほとんど見かげず、ここに新たに建てているのは、将来の地主を目指しているようでもある。
(2014年1月)

干上がったさんご礁の受難

あまり浅いと、サンゴが波で壊されてしまいやすいが、それでも、隆起でできた陸地には、結構な数のさんご礁が干上がってしまっている。隆起が約2mくらいなので、その前には、かなり浅いところにあったさんご礁ということになる。これらは既に死骸となっていて、将来のないサンゴばかりでどうしようもないが、震災直後にこの一部を切り取り、海の中に戻して、サンゴを救おうとした人が居るのか居ないのか。たぶん避難生活で大変でそんなことを考える暇などなかった人がほとんどだろう。切り取って、海水に入れておけば生き延びるかもしれないと思っているのは素人の発想で、まずはそこから確認が必要だ。

直径20cmほどのサンゴの群れが、新しい陸地に広がっているが、これも全滅であろう。(2014年1月)

いろいろな種類のさんご礁が干上がっている。
(2014年1月)

直径1m近くの大きめのサンゴも干上がっている。
そのうちどこかに持って行かれるのではないかと心配だ。
(2014年1月)

マングローブの命運やいかに?

震災後2ヶ月以上経過しても、マングローブに枯れる兆候はないし、海岸線でなくて、内陸にもマングローブが育っているところもあるそうなので、今回干上がったマングローブは多分生き残るのであろう。しかし、海岸線にないと、他の木と同じようでもあり、切られやすそうだし、これまでのように繁殖を続けられるのかどうか? 最悪の場合、乾季に枯れてしまう可能性もあり、今後の動向が気になる。

通常よく見かける蛸足タイプのマングローブ
(2014年1月)

普通の木と同じようなタイプの
マングローブ(2014年1月)

元の海に雑草が

元海の中、マングローブの横には、雑草が生えかけているところもある。雨で海の塩分が土からかなり流れてしまったということだろう。マングローブの近くだと泥なので、砂地よりは草が生えやすいのだろう。草は順番に広がっていき、そうすれば、近所の人が牛をつなぎにくるのは必定で、牛糞が転がりだせば、土の養分が増し、雑草はさらに増えるだろう。新たにできた陸地には砂地が多いが、それも含めて、数年したら草ぼうぼうになるのかどうか、これも興味深い。

隆起でできた陸地に生えだしたよくある雑草
牛も食べる草である。(2014年1月)


(以下2014年12月追加)

ボホール大震災の隆起でてきた新大陸の一年後

2013年10月に起こったボホール大震災での隆起により、海岸線にできた新たな土地について前回紹介したが、現地に再訪する機会があり、1年後の様子を紹介したい。近くに住む知り合いが新大陸と呼んでいたので ここではそれを踏襲した。

国有地につき立ち入り・通行禁止

NO TRESPASSINGと書かれたDENRの看板

1年後の現地の様子

新大陸では、予想通り いろいろなことが起こっていた。

上の写真のようにDENR(Depatment of Environment and Natural Resources)が立ち入り禁止/通り抜け禁止の立て看板をあげていて、国に囲い込まれてしまったので、ここに無料で土地を得て移住しようと目論んでいたとしたら、計画は頓挫したと言えるのかもしれない。

しかし、いろいろな観点があり、まずは、少し法律を調べてみたら、国有地に勝手に立ち入ったり、住み着いたりすることを禁止している条項がみつかった。一方、以前弁護士から聞いた話では、Public domainに、代々50年住み着けば、タイトルを申請できるということだった。来るな、入るなとは書いてあるが、弁護士の意見に従うと、めげずに住み続ければ自分のものになりそうではある。しかし、乱開発されても困る。

DENRの看板とは矛盾して、いろいろと建造物が増えていた。一番目立つのは、物見やぐらのような監視台で、津波その他を見張るのだろう。これは寄付されたもので、公共のためのもので、特に問題はないのだろう。プロックやWaiting seatと呼ばれる形状の漁師のたまり場もできているが、これも同様に問題なさそうだ。

一方、水際に頑丈な石垣を積んで波よけにして 小屋を建てている人もいるが、これだとかなりもめそうにも思える。

No trespassingと書いてあり、漁師が小舟を置いて漁に出るのも禁止されているように読め、ここを通って漁に出るなら許可を取れと政府は言いたそうだが、漁師が そんなことをしているとは思えない。いろいろと矛盾があろう。

近所に建築中のホテルのオーナーが寄付した監視台

漁師のたまり場

石の防波堤

牛の飼育よりサツマイモの栽培

雑草が生えて、牛の飼育を始めるのではないかと期待していたが、まず始まったのはサツマイモの栽培である。砂地の至るところにサツマイモが植えられていて、現地の人たちのたくましさを感じた。 今回も 新大陸に隣接する元海沿いに住む日本人の知り合いの家を訪問したのだが、その人の家の前にもサツマイモが沢山植えられていた。海と自分の家の間にできた土地なので、当然その家の人が植えたら良さそうだが、近所の人に先を越されたそうだ。それでも、空いている砂地に順番に自分も植えたそうで、すでに収穫もされていた。かなり小ぶりだったが、そのうち改善されるのだろう。隆起の直後だと砂に海水が含まれて育ちにくそうだし、大震災の直後では、それどころではないという話もある。しばらくすると近所に先きおこされ、植えるにもタイミングがあると言えよう。


新しく植えられたサツマイモ

かなり広がった雑草

1年後には雑草がかなり増え、予想通りと言えるが、まだまだ限定的である。ちょっと見た感じでは、砂地の中で、少しくぼんでいて水がたまりやすい場所から生え出しているように見えた。牛をつなぎだしたら牛糞で雑草が増えそうだが、今のところ牛は見当たらない。サツマイモ畑と、雑草・牛組は競合していると言えるが、薩摩の方が勢力を伸ばしていて、このまま牛は日の目を見ないのか今後の動向が注目される。牛がサツマイモの葉を食べてしまうと、もめるので、牛はサツマイモ畑からかなり離してつながないといけないという制約があるという話である。

やはり厳しい運命の旧世代マングローブ

注目のマングローブは 1年後かなり厳しい状況に追い込まれていた。小さなマングローブの中には既に立ち枯れしてしまったものもあり、それ以外も 全般に葉が減ってしまったか、色が黄色くなって、元気がなかった。一方、新しい水際に新たにマングローブが植林された部分もあり、そちらに移っていくということで、旧海岸沿いに前からあるマングローブには、長い将来はないということだろう。

枯れてしまった旧世代マングローブ

元気の無い旧世代マングローブ

新しい水際に植林されたマングローブ

さんご礁の写真も紹介しておくと、以前より色が黒くなり日焼けしたような感じだった。

色が黒くなった1年後のさんご礁


(以下2015年10月追加)

ボホール大震災の隆起でてきた新大陸の2年後

震災から2年が経過したが、現地を再訪する機会があったので、新大陸の2年後の様子をレポートしておく。前回と同様だが、隆起でできた陸地のことを、現地に住む知り合いが新大陸とよんでいて、それを踏襲させてもらっている。


語られる開発計画

近くに住む知り合いによると、地元では新大陸の活用方法がいろいろと語られているそうである。折角広大な陸地ができたので、リゾート開発を進め、観光で地元を活性化させようというのが主要な案のようだ。元からある陸地にホテルの建設が進められていて、そのホテルから新大陸を利用したいという要望が出ているが、行政側からの許可が下りていないそうだ。

バランガイからは、新大陸の山側にバランガイロードを作る案も出ているそうだが、作っている様子はない。既存の道から新大陸にアクセスできるようになれば、フィリピンらしいやり方で、適当に車やバイクが走りそうだが、まだそうはなっていない。

実態としては、前回紹介したように、漁師が舟を停めたり、サツマイモが栽培されたしているがり、政府の方からは、国有地につき立ち入り禁止というお達しが出ている。


砂が積る

元の海岸線から沖合い数百メートル先まで隆起で干上がり、平らで広大な陸地が誕生した。そのため、非常に風通しがよくて、場所にもよろうが、前回、前々回と見て歩いている地域では、吹き寄せられた砂が元の海岸線近くに積もり、砂の量がかなり増えた。まさに砂丘のできるメカニズムと言えそうだが、どこまで砂が増えるかは定かでない。背後の陸側は山で、反対の海側は平らな陸で風通しが良い。季節風の向きが変わっても、山の背後から季節風が吹く時期には山が風をさえぎり、反対に海から季節風が吹く時期には、そのまま風が吹き付けやすい。元の陸地は坂になっているので、その手前が吹き溜まりになり、砂がたまりやすいのは容易に想像できる。今後も、元の海岸線の近くで砂が増えそうだ。

新大陸の旧海岸線に近いあたりで砂が増えた。

旧海岸線からは、かなり離れ 海に近づいた場所ではあるが、蟹が穴を掘って、沢山の砂の山を作っている部分がある。山が20cm以上あり非常に高く、砂の多さを印象付けられる。このあたりの砂も、後々、風で旧海岸線近くまで吹き寄せられることであろう。

蟹が作った山 
20cm以上あり、蟹の仕業にしては結構高い

蟹の山が沢山あるところ

さんご礁が消える

新大陸の海に近い側では、今でもさんご礁を見かけるが、旧海岸線近くで砂が増えた部分では、さんご礁を見かけなくなった。その理由として、さんご礁が砂に埋まってしまった場合と、誰かが持ち帰ってしまった場合が考えられる。お持ち帰りの方は実際に近所の住民が持ち帰っている事実があるそうで、普通は禁止だが、隆起で干上がってしまったさんご礁については、どうなのか良くわからない。

限界が近づく旧世代マングローブ

予想通りで、旧世代のマングローブは、2年でほぼ壊滅と言える状態になっている。倒れてしまった木もある。下の右側写真のように枯れたマングローブの間に、新しい植物が生えてきているところもある。この葉っぱは20cm以上の大きさがあり、牛も結構食べる。牛が飼われだして、この葉っぱを食べようとすると、枯れたマングローブの枝が折れてしまうというようなことも起こるだろう。

折れてしまった、大きなタイプのマングローブ

マングローブの間に生えた大きな葉っぱの植物

生え広がる雑草

隆起してしばらくした時から元海の中に雑草が生えだしていたが、2年もすると それがかなり広がっている。雨が繰り返し降って、塩分もほとんど流されてしまったのだろう。

元海の中に生え広がった稲科の雑草

養分の少なそうな海岸でよく見かける
乾燥に強そうな草

消えゆくさんご礁

隆起で干上がってしまったさんご礁の運命だが、旧海岸線に近い当たりでは、上に書いたように、砂で埋まったか、お持ち帰りにあったか、既に見かけなくなっている。新大陸で、旧海岸線と新海岸線の真ん中当たりのさんご礁は、人が踏みつけたか、風化したか、壊れつつあるものが目立った。

壊れかけのさんご礁


(以下2018年6月追加)

ボホール大震災の隆起でてきた新大陸の4年半後

震災直後、1年後、2年後の新大陸の様子を紹介してきたが、今回は4年半後を取り上げる。

普通に木が生え揃った元海岸線近く

奥のヤシの木は震災前から陸だったところだが、手前の木々は、以前は海の中で、マングローブが生えていた場所だ。

現地でイピルイピルまたはサンケと呼ばれる
マメ科の木

元の海岸線から数十mのところまでは、以前はマングローブが沢山生えていたが、今は、普通の木に入れ替わった。震災直後は塩分が多かったはずだが、雨で塩分が流れて、今はほとんど普通の土壌のようになったみたいで、普通に木が生え、5m以上の高さになっている。

新大陸中央部分の様子

上の元海岸線付近は大体決着がついたと言えそうで、木が生え揃い、元々陸だったところとの区別がつきにくくなり、今後も同じような状況が続きそうだ。これに対して、その続きの中央の広い部分で、波打ち際までの間は、まだまだこれから変化がありそうだ。

例えば、下の左の写真のように、3m位の高さの木が単独で、ところどころに生え出したが、これはそのうち増えていくのだろう。同様に、右側の写真に写っている50cm程度の植物も 現状では、ところどころに生えているだけだが、これから徐々に増えそうだ。岩の多い海岸で たまに波しぶきを浴びそうなところでよく見かける植物で、私の家の近所の海沿いにも生えている。

この中央部分では、海水が溜まっているところもあり、今後も塩の影響をそれなりに受けそうだ。地面の微妙な高さの違いや、岩や砂など土壌の違いで、今後植物が増えたり、あまり増えなかったり差が出そうだ。

テレビのドラマを見るようなつもりで、今後、5年先くらいを楽しみにしたい。

3m位の高さの木が、ポツンポツンと所々に
生えていた。

かなり岩が多い場所で育っている植物

消えたNo trespassingの看板

まだ、ほとんど原型を留めているサンゴの死骸

植物が育つ以外の変化では 予想通りで、上の写真のように、No trespassingの看板が見事になくなっていた。これについては、土地を自分の所有にしたい人の仕業だろう。それから、この看板の材料を誰かが何かに使ってしまったのだろうという推測。例えばこの二つが思い浮かぶ。

いろいろと詮索するのもフィリピンでは楽しいが、とにかく消えて無くなってしまった。

その横のサンゴの死骸については、早くから壊れてしまっていたものもあるし、この写真のように5年近く経過しても、そのまんまに近いものもある。

震災直後とあまり変わらない岩場の波打ち際

元が岩だったところが、震災による隆起の結果波打ち際になったが、このあたりの様子は震災直後からほとんど同じに見える。

もしも、様子が変わるとしたら、波で岩が削られ 砂になり 砂浜に変わることが考えられるが、これにはかなり時間がかかりそうだ。もしくは、潮流で砂が流れてきて、砂浜になるかもしれないが、現状ではそのような兆候は見られない。

もう一つの可能性はマングローブで、植林だけでなく、種が流れてきて、自然に生え出したものも見かけた。しかし、岩の上だとマングローブは生えそうにないので、ここで見かける岩が多い波打ち際では、一面マングローブということにはなり難そうだ。

岩の波打ち際

漁師とバンカ(小舟)


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