コンパイ(Kumpay 牛の食べる葉っぱ集め)で疲労困憊

2010年 5月作成
2020年12月更新


(→2020年12月更新分へ)

みんなで山へコンパイ(Kumpay)に

数年に一度廻って来るエルニーニョ現象。その度に雨が少なくなり、マニラや各地で水不足に陥り、給水制限が行われることも多い。シキホール島では、地下水が比較的豊富で、給水制限は聞かないが、それでも、場所によっては、水の出が悪くなる実質給水制限の水道もある。私のところは、水事情は以前より良くなったので、人間が使う水は問題ないが、牛を育てて、学費を稼ぐというプロジェクトを現地の人に進めてもらっていて、雨が少なくなり牛が食べる草が少なくなるのが問題である。

山に住んでいれば、木の葉が多くて良いのだが、私の家の周辺は、山からかなり遠い平地で、同じ島の中でも雨が少ない方である。
余談だが、以前、ハワイのワイキキの安アパートに1ヶ月滞在して体調を整えようとしたことがあった。その時に、何かで読んだ話だが、ワイキキのホテルの並んでいるところは、年間の降水量が200mm程度で、日本と比べるとほとんど雨が降らないと言える。海水浴には最適な場所であろう。ところが、ハワイ大学からもう少し山に行ったところで、ワイキキから わずか5kmほどしか離れていない場所では、年間の降水量が10倍以上で数千mmに達するそうだ。実際にバスで行ってみたら密林で、木が高くうっそうと茂り、木の表面はつたに苔。頭上は木と葉で覆われ、日光はほとんど遮られ、水滴がポタポタ落ちて来そうな感じである。
ポリネシアの切り立った地形が原因であろうが、同じ島のわずかしか離れていない場所で、そんなに気候が異なるのは、驚きであった。
こちらは、ワイキキのようないい所とは程遠いが、同じように平地で、山から離れていて、雨が同じ島の他の地域より少ない。ただし、雨が海からやってくることもあり、ワイキキとハワイ大学の裏のような極端な差にはならない。

余談はこれくらいにして、エルニーニョで雨が少なくなり草が減ると、皆で山に出掛けて、コンパイ(牛の食べる葉っぱ集め)に励む。まさに今がその渦中である。私は、牛を提供する人と言い張り、コンパイなどは勝手にやってもらう手もあるが、それでは、皆の励み具合が大きく異なってしまう。牛も喜ぶので、連日のようにコンパイで疲労困憊するしかない。

それでも、山のいろいろな場所に行くと、いろいろな発見があり十分楽しめる。こんなところにまで人が住んでいるのかとか、こんなところで山道がつながっているのかとか、森を抜けると平地で開けていたとか、面白い地形があったり、眺めが良かったり。広くないシキホール島の近所の山だけでも 十分楽しめる。

牛の好き嫌い

インターネットで検索すると牛が好んで食べる草はイネ科とマメ科と書いてあった。イネのような細長い雑草なら、大小によらず、何でも牛は喜んで食べる。マメ科では、枝豆の葉っぱをやれば、食べそうだが試していない。南国での家畜の餌としてのマメ科の代表は、こちらではイピル・イピルまたはサンケとよばれる小さな楕円状の葉っぱで、マメのさやは20cmほどになり、葉と豆とも牛が好んで食べる。フィリピンだけでなく、タイの離島でも グアムでも マーシャル諸島でも見かけた。ダーウィンの進化論を読めば書いてあるように、鳥が種もろとも木の実や豆を食べて、お腹に入れたまま飛び立ち、別の島で糞をして種を外に出すので、植物は簡単に世界中に広まる。あとは 気候がその種に適しているかどうかと いうことにである。

イピル・イピルについで、こちらで牛の人気No.2は、トガシと呼ばれる木の葉っぱである。この二つが手元に大量にあれば、牛の世話は簡単だ。勝手に限界まで食べて、あとは水をやれば勝手に太ってくれる。日本などでは、穀物の飼料も大量に与えるはずだが、牛は草だけ食べていても、消化器の中で 微生物が草の成分の一部をたんぱく質に変えるので、成長できるのだという話を聞いたことがある。子牛は親の乳を飲んでいるが、その親には、たんぱく源を特に与えていないので、この説明で間違いないのだろう。

イピル・イピルは結構早く成長するので、雨が降った後、私は家の近所の空き地に、あたりかまわず 種を巻いている。芽を出して成長を始めるが、問題は牛との闘いである。こちらの気持ちとは裏腹に、牛が勝手に食べてしまうので、なかなか 思うように大きくならない。ある程度以上大きくなると、葉っぱに牛の口が届かなくなるので、そこまでたどり着けば、イピル・イピルのサバイバルは成功である。

イピル・イピルとトガシ以外でも、何十種類も葉っぱを試して食べさせているが、好き嫌いの序列がつく。一般的に言われているのは、渋い葉っぱはあまり食べないということだが、臭いを嗅いで、避けていることも多い。それなら、くさいから好まないのかというと、そうでは無さそうだ。他と同様で特に臭くもないのに、好む場合と好まない場合がある。
牛は、他の牛の食べ残した草は通常食べないという習性がある。クンクンにおいで、他の牛の匂いがしたら、通常は食べない。これは、FMD(口蹄疫)のような、口からもうつりやすい病気があるので、本能的にそうしているのかと、私は推測しているが、確認できたわけではない。バケツに水を汲んで飲ませても、他の牛が飲んだ水をそのまま次の牛にやると、匂いを嗅いだ後、大抵は飲まない。綺麗に洗って、水を入れなおすと飲む。
フィリピンでは、お酒を回し飲みしている場合が多いが、誰かが同じコップでその前に飲んだかどうか 匂いで分かる人などいないだろう。人間より牛の方が嗅覚が発達しているのは間違いない。牛は匂いで葉っぱをより分けているように思える。

牛によって、好き嫌いのランキングも異なり、どの葉っぱまでは許容範囲で食べるかどうかという境界線も異なる。これは、人間の場合も同じである。美味しくない葉っぱを大量にコンパイしてくると、悲しい結果が待ち受けているのは容易に想像できる。まずい葉っぱも、いろいろ取り混ぜれば、何とか食べ切るという話もある。お腹が空けば、少々まずくても食べるのは当然だろう。従って、手持ちのカードが良くないのに、最初からイピル・イピルやトガシを与えているようでは、餌やりゲームに勝てないのは容易に理解できる。しかしながら、これすらも理解できないフィリピン人が少なくないというのが私のボヤキである。

何でも食べる優秀な牛と、グルメで葉っぱをかなり選り好みする牛がいる。グルメ牛は、葉っぱの少ない状態では、同様に扱うとやせていくので、そちらを優先して、美味しい葉っぱを与えるということになろう。しかしながら、それを続けていると、今度は、横で見ている優秀な牛がストライキを起こし、私にも美味しい葉っぱを頂戴と言わんばかりに、まずい葉っぱを食べなくなってくる。すると、しばらく餌を与えず、空腹にさして、選り好み状態をリセットさせる。人間と牛の化かし合いである。

単純作業と思えるコンパイにも、頭を使う要素は一杯ある。しかしながら、現地の人々からは、そんな話は一つも出てこない。暗記物ばかりやっている学校教育に問題があるのではないかというのが私のボヤキである。

カタカナのコンパイだけでは すぐに頭から消えていくが、コンパイで疲労困憊と覚えれば、頭に残るのではないかと期待している。

牛の人気NO.1
イピル・イピル
枝は牛の餌で既にかなり折られた後

コンパイを喜んで食べる牛
しかし、この葉っぱはランキング上位ではないので、沢山与えると食べなくなる


日本で落ち葉拾い (2020年12月追加)

堆肥用に道の落ち葉を拾う

コロナ禍で、フィリピンに戻れなくなり、日本の知り合いの畑仕事を手伝い、その中で堆肥用に落ち葉を拾った。落ち葉を集めるのと道の掃除の一石二鳥を狙っていたが、今回の場所は山道の入り口で、落ち葉が多かった。集める方には適していたが、全部は取り切れず、掃除の観点からは、別にもっと適したところがあるのだろう。

葉っぱを拾うのは、コンパイと同じだが、堆肥にする場合はcompostで、英語だけでなくフィリピンでもそう言う。最近は日本でも、カタカナでコンポストと言うようだ。コンパイのkumpayは、辞書ではタガログ、ビザヤ、マレー語で登場し、マレー系の言葉なのだろう。葉っぱを集めるのまでは同じだが、後は用途によりコンパイ、コンポストの違いが出る。


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