教科書が足りない

2011年 8月作成



5年ほど前には、近所のハイスクールに通う生徒が、「学校では教科書が足りていなくて、3人で1冊しかない。」と言っていた。それでも私は暢気なので、教科書を全部書き写すか要約してノートに書いておけば、頭の中によく入って良いのではないかくらいに思っていた。私の記憶でも中学校の頃は、英語の教科書は、学期の始まる前の休みにすべて、ノートに書き写し、日本語訳や単語の意味も書き加えていたと思う。そうすれば、学期中は授業の予習をしていく必要がなくなり、時間の余裕ができたので、屋根に上がってアンテナばかり作っていたというオチになる。ただ、休みにやったのは、本屋に売られている怪しい本を買ってきて、それを書き写していただけで、そんなことをやっていたので英語のレベルは大したことがなくて、フィリピンに来てから苦労しているという二重のオチになる。

またまた、余談が過ぎたが、近所のハイスクールでは、当初は教科書が足りなかったが、ほどなく新しい教科書が入ってきて、全員に行き渡るようになったそうだ。それで、大体どこも同じ状況なのだろうと勝手に想像していたら、そうではなかった。最近 ドゥマゲッティに行って聞いたら、話をした人の近所の学校では、なんと、現状、教科書は8人に1冊しかないそうだ。それで、各人がコピーを取って 使っているらしい。フィリピンの粗悪コピーは安いが、それでも枚数があるので、200ペソ以上はかかるはずだ。各教科の教科書をコピーするとなると、結構な出費になる。

そもそも、日本のように、教育の予算が十分あれば、義務教育では、毎年全員に教科書は無償配布される。高校では有償でも、値段は高くない。そこそこ勉強する生徒なら、参考書代の方が高くて、さらに、塾に行ったり、家庭教師に来てもらったりしたら、そちらの方がはるかに高くつく。要するに、国でも個人でも、教科書は毎年、全員が新品を入手できるだけの十分な経済的 余裕がある。政権が変わって、制度面でも少し変わるかもしれないが、教科書の状況が大きく変わることはなかろう。

フィリピンも日本と同じように、毎年全員に新しい教科書が行き渡るようになっていればよいが、現状を見ている限り、そこまでは、国・個人とも予算がないということだろう。

マスバテから来た先生の話

12年前にマラパスクア島に行った時のことである。、マスバテから小さな舟に乗って、マラパスクア島に遊びに来ている先生がいて、その人からいろいろと話を聞いた。

その先生が教えている地域で教科書を買うべく、中央から予算が付いたが、その予算を地方の上級の役人が横領し、マラカニアンで高い地位の職につくための賄賂として使ったそうだ。首尾よくその人物は、マラカニアンで職を得た。一方、その地域の子供たちは教科書がないという笑い話のような事態が現実に起こったそうだ。私にその話をしてくれた女の先生は、正義感が強く、マスコミにその事実を流して、そのまま報道されたそうだが、自分の直属の上司から叱られたそうだ。そういう話は、まず その上司を通してからにして欲しいということだそうだ。

フィリピンなので そんなものだろうと思ったが、あまりに悲しい事実なので、どうせならCNNにでも直接情報を流せば、外圧がかかって、何かが変わるかもしれないと提案しておいた。

いずれにせよ、こういう状況では、例え外国から 教科書代の支援を受けても意味が無いと思った。

近所のハイスクールの例

マスバテの悲しい話は10年余り前のことで、今は政権も変わり、現政権では不正を徹底追求すると言っているので、少しは改善していると期待したい。さらに、続けて紹介するように、近所のハイスクールではうまくいっているので、それはすなわち、末端がうまく回って行けば 全体がうまく機能するように、中央のオペレーションが行われているのだろうと想像することができる。

近所のハイスクールでやっている内容は単純で、きっちり管理しているというだけの話で、年初に教科書を貸し出し、年度が終わったら返却させるが、返さなければ弁償させるそうだ。卒業の時のわずかな費用が払えなくて、アルバイトをさせてくれと 言ってくる生徒も居るくらいである。高い教科書を弁償しろなどと言われたら大変で、さらに、学校側は支払わなければ、進級・卒業させないというのは、フィリピンでは基本中の基本なので、どう考えても、教科書がなくなるとは思えない。

因みに、私立の大学では数週間ごとに行う試験の前に、それまでの学費をきちんと払っていないと試験を受けさせず、即その時点で学業をストップさせるというのが普通である。学費支払いのサバイバル・レースが続く。シキホール島に住んでいた以前の知り合いでも、それで借金して、高利貸しの厳しい取立てにあって、卒業後に家族でミンダナオに夜逃げした例もある。

別の学校の例

シキホール島に住む日本人に聞いた話は次の通りである。

彼の住む地域での教科書事情は悲惨で、教科書は、倉庫に保管してあり、生徒には使わせず、ねずみの餌にしているそうである。破れたり、無くなったりするのを恐れてのことであろうが、とにかく、これも笑い話の一つであろう。
私が聞いたのは以上で、この意味は、例えば、教科書を全員に渡すには冊数が足りないので、皆にコピーをとってもらった。そしてオリジナルは、そのまま倉庫に保管してあるが、ねずみに食われることもある。例えば、このように解釈できよう。そうではなくて、現実は全然違うということが判明すれば、後日訂正する。

ビニールカバー

本を長持ちさせるのに有効なのが、ビニールのカバーである。日本でも図書館の蔵書は通常 強力にラップされていて、いかにも長持ちしそうだ。フィリピンの学校で使われている教科書でも、カバーが付けてある場合が多いが、そうでない場合もある。教科書を何年も繰り返し使い続けるのであれば、このカバーは必須であろう。先日も、こちらで運営しているラーニングセンターに、近所のハイスクールから教科書を60冊ほどもらった。ここでは、教科書が足りない話をしているのに、現役のハイ・スクールから沢山の教科書をもらってくるとは 奇異な話であろうが、そのことは深く考えず、とにかくもらったので、早速カバーをつけた。ビニールの厚みによって予算が変わるが、1冊につき約5ペソかかった。ビニールが分厚すぎるという意見も出たが、コストと耐久性のトレードオフである。


まだ情報収集が十分ではないが、ここまでの情報から考察すると、既にうまく行っている学校のように、教科書を全員に貸し出して、無くしたり破損したりしたら弁償してもらえば、うまくいきそうである。教科書が足りていない学校は、新たに全員の分 教科書が入荷すれば、同じような仕組みにするよう全国的に通達が出ているのかもしれない。それとも、フィリピンを甘く見てはいけなくて、そんな洒落たことはないかもしれない。また、蔵で眠ってねずみの餌になっている教科書があるということは、教科書が無くなると先生にペナルティが及ぶようにはなっていると想像される。

教科書が足りてない学校へ ケーキでも持って校長先生と会って、教科書を貸し出して無くしたら弁償させる方法を採用してもらうようお願いしたら、「次回教科書が入ってきたら実施します。」と言ってもらえそうだ。しかし、実際に実行に移されるかどうかは、その学校の先生次第であろう。達成したら、ボーナスでも出て、先生が儲かる仕組みを導入すれば、フィリピンなら簡単に実行されそうにも思う。

書いている本人は、これしか辻褄の合う説明はないと思っているが、推測で書いていると思われかねない内容なので、もう少し調べてから、後日まとめ直したい。


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