サリ金地獄

2005年 12月



私のところに 先日来られた日本人から伺った話である。
フィリピンの貧しい家族を支援すべく、サリサリストアを始める資金何千ペソかを貸してあげたそうである。こういう場合は特に、貸しても あげても結果は大抵同じである。
そして、ご多分に漏れずと言っても 間違いないと思うが、儲かるのは中国人が経営する卸屋だけで、このサリサリストアも、商売はうまくいかなかった。仕入れのお金にも事欠き、高利貸しからお金を借り始めたそうである。それを聞いて 私は 「サリ金地獄」と呼ばずして何と呼ぶと、そう思った。
貧乏人から金を巻き上げ、金持ちの地位が常に安泰であるフィリピンでは、高利貸しの金利も半端ではない。噂では、月一でも 一日一善でもなく、一日一割という金利もあるそうだ。その日の仕入れのお金を借りて、全部売れれば、この金利でも商売はできるという計算らしい。
別の例を挙げると、知り合いが自転車までローンで買うのにびっくりして、一体合計でいくら払うことになるのか計算してみた。すると、1年足らずの返済期間に対し、支払いの合計が定価の2倍近くの金額になってしまうのが分かり、さらにびっくりしてしまった。インフレは、政府が発表しているよりは、実感ではかなり高い率に思えるが、それとは比べ物にならぬほど、貸付金利が高い場合が多い。
ただし、ローンを返済せず、ドロンするフィリピン人が多いのも事実で、ある程度は金利は高くせざるを得ないのも事実だ。
サリサリストアを始めたこの家族がその後、どうなったか聞いてはいないが、通常だとドロンするしか手がなさそうだ。私の近所でも、住宅ローンを確信犯的に踏み倒して、ミンダナオ島のザンボアンガに行ってしまった家族がいるが、行き先の住所はちゃんとわかっているのに、現地で特に問題なく暮らしている。ローンなのでドロンと書いたが、これではドロンとは言わないのかもしれない。適当に遠くに引っ越せば、貸し手は面倒臭いので、いちいち取立てには来ないということか?  
このような、いい加減で済んでいる事例はあるにせよ、やはり、サリ金地獄はお勧めできない。当たり前のことだ。

サリサリストアが駄目な理由は、一般によく言われるのは、貸し倒れである。借りたものは返さないと、かなり多くの人が言っているお国柄では、これが危険なのは容易に想像できる。私の家でも、以前は商売をしていたが、近くの近江八景になぞらえ、「我が店は、貸して売っては粟津、膳所(ぜぜ)、唐崎の客を待つ。」と毛筆で書いた額が飾ってあった。ローカルにしか使えぬ文句だが、開店に当たって、これを送って下さった知り合いは、大した人物だと今更ながら思う。
貸し倒れも大きな理由だろうが、それよりも 私が指摘したいのは、次の三点である。過当競争、薄利、フィリピン人のお金無し。この三つである。三つ目は、これのお陰で、安いお店でまとめ買いするフィリピン人は多くない。そのためサリサリストアの品物が売れるということもでき、それはそれで正しいのだが、お金がないので、子供が1ペソのパンを1個買って食べたり、50センタボのキャンディーを1個買ってなめたりということが、日常茶飯で行われている。これでは儲からない。過当競争については、以前も書いたとおりである。

以上のような理由から、サリサリストアに てこ入れするのは、よほどの良いアイデアが無い限りお勧めできない。


最近 私の方では、子牛を育てて学費を稼ぎ、大学に行きナースになって、米国に出稼ぎに行くというカウガールズプロジェクトを始めていて、既に20頭近く子牛を買った。5000〜6000ペソ程度で買った牛が、1年足らずで値段が3倍ほどになり、1万ペソ程度の利益が見込めそうである。このプロジェクトは、豚と違い、牛が無料の雑草を食べて育つのが狙い目だ。牛を買う場合には、必ず、売り手が牛を売る目的を確認している。その場合に、サリサリストアを始めたいなどと言ったら、まずは その牛は買わない。牛を売らずに、そのまま育てた場合よりも多くの収益が見込めないと こちらも悲しいのである。

因みに、一番多い理由は、子供が大学に行く学費のためであり、これは牛であがる収益を分け合っていると言える。その他、これは一番優先順位の高い例だが、子供がデング熱にかかり入院したのでお金が必要だから急に牛を売ることにしたという場合があった。こういう場合はこちらは少々無理をしても、牛は買わざるを得ないが、実際には超バーゲンで お買い得である。デング熱はこちらでは、デンゲと呼んでいるので、ちょっと不謹慎だが、「デンゲ牛はお買い得」と仮称している。もちろんこちらは買い叩いているわけではなくて、言い値で買っていて、双方納得してのことだ。

別の有望そうな目的もあった。カクトス(Cactus)と言えば、一般的にサボテンのことだが、私の近所では、いつも上に花が咲いている特定の種類のサボテンを指していることが多い。フィリピンは、日本のようにいろいろな種類のサボテンが簡単に手に入る状況ではないので、フィリピンの全般的にこの特定のサボテンを指すのだろうと思うが確認できていない。そのため「私の近所では」と断った。
このカクトスが、他の島から買い付けに来ると結構いい値段で売れる。前回は一鉢250ペソで売れたそうである。ドゥマゲッティでも結構良い値段で売っているのを見たことがある。私も、人からもらったカクトスを植えて、枝ができると切り取っては別にして 増やしているが、よく育って、順調に増えている。1年も置いておけば、250ペソで売れた実績のある大きさまで十分育つ。250ペソと言わず、150ペソでも買い続けてくれる人が現れれば、十分良い商売になると思う。 
ここでのリスクは、私の見立てでは、コピー文化だ。隣がサリサリストアを始めれば、自分の家もというように 近所にサリサリストアが沢山できるのと同じく、真似し漫才のフィリピンでは、みんながどっと同じものを育てて、供給過剰になる可能性がある。そのため、参入障壁が大切だということになりそうだ。
明らかに、フィリピンのことを悪く言っているが、実は日本でも韓国でも同じようなことをやってきた。違いは真似のし易さと言えよう。カクトスづくりは余りにもバカチョンだ。サボテンなので、しばらく水をやらなくても大丈夫だし、このビジネスはあまりにも簡単に真似ができてしまう。
私は売るつもりはないが、私も「真似した」一人と言えそうだ。順調にカクトスの数を増やしている。隣の家では、なんと、私がしばらく土だけ入れて置いておいた植木鉢を勝手に持っていき、カクトスを植えて、いかにも買い手が現れるのを待っているように通りに近い最前列に並べている。私がしばらく日本帰っていた後、こちらに戻ったらそうなっていた。呆れて物も言えないが、その代わりここでぼやいているという次第だ。このまま私の植木鉢も売られていくのだろう。
しかし、勝手にと言えば、勝手に いろいろな植物を持ってきて私のところに植えておいてくれる。これを、先の250ペソの計算を適用すれば、こちらは大いに儲かっているとも言える。しかし、現地の人は、こんなものは、売ったり買ったりしない。バナナやパパイヤと一緒で、お互い余った分を無料であげている。こういう状況を総合すると、お互い様という面もあり、あまり文句は言えない。

本題から逸れてはいるが、実はサリサリストアのことはどうでも良くて、サリサリストア以外にどんな良いビジネスがあるかを書いて参考にしてもらいたいのである。参考と言っているのは、日本人や外国人がこれを参考にしてビジネスを始めるという意味合いではなくて、貧しいフィリピン人が自分のビジネスを始めるのを支援して下さる方の参考にしてもらうという意味である。

カクトスについては、できれば、近所の人にアルバイトをしてもらい、市場調査をしたいと思っている。それができれば当然別途公開する予定だ。ただ、いきなり否定的な物言いになるが、費用がかかるので、自分のことながら、十分な情報が得られることは、あまり期待できないと言うしかない。予算数百ペソでは、セブまで市場調査に出張してもらうこともできない。すでに調査実績のある方から連絡を頂くことも できれば期待したい。それなら、こちらはリンクを張るだけで済み、財布に優しい。


最後に、これを読んでいる日本の方で、既にサリサリストアを経営されて、うまくいっている方が絶対ないとは言い切れない。そういう方は、ここでの内容に気分を害されたかもしれない。私は、サリサリストアで十分な利益をあげている事例は非常に少ないと確信しているので、そういう方と議論しても時間の無駄である。ここでの内容が、サリサリストアの気分的な参入障壁を高くするのに貢献していると感謝して頂き、好意的に捉えて頂きたいものである。


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