選挙翌日の受難

2013年5月14日作成
2016年5月12日最終更新





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フィリピンでは、大統領・副大統領の任期は6年だが、それ以外は3年ごとにまとめて、5月前半に選挙が行われる。その中間選挙の翌日、シキホール島でのことである。

いつもは沢山のおかずが並んでいる安めし屋に昼食に行ったら、売り切れと言われた。いつもはおかずが十種類以上は並んでいて、夕方でもそこそこおかずがある。 仕方ないので、町まで、食べに行ったら、そこもWala. もう無いよと言われてしまった。

あきらめて、自炊に切り替えるべく、市場を覗いたら、肉も魚も売り切れ。

パン屋に行っても、綺麗に売り切れていた。

自分の食べるものは何も買えない、外では食べられないというまさに受難の日であることが判明した。仕方が無いので、自宅の冷蔵庫に残っているものを具にして、うどんを作って食べようという方針に切り替えた。そして、折角町まで出てきたので、この特別な日の町の様子をさらに写真に撮って帰った。

いつも良く買い物をする商店の店先。
50kg入りのお米が積まれていた。普段は倉庫に入っているが、次から次に売れるのでこうなった。
隣家では、既に前日50kg入りのお米を買っていた。

チキンの丸焼きの店には、長蛇の列が出来ていた。
普段は並ぶ必要はない。

中国製の安物を売る店も客が詰め掛けていた。

トライシクル乗り場では、大きな袋に買った品物を入れて、家へ帰る人の姿が見かけられた。

現地の人々は、普段は、お金がなくて なかなか物が買えないのに、この景気の良さ。この単純な分かり易さは まさにフィリピンと言わずにはおれない。

今回の選挙では、腐敗一掃の掛け声で、売買票は厳罰に処すという前評判だった。中央選管の決定により、選挙の直前に預金の引き出しを制限し、お金のばら撒きをできないようにするという話もあった。しかし、それでは、経済への影響が大きく、実際には銀行が従わなかったというオチもどこかに書かれていた。そして、ふたを開けると、翌日の写真を見れば一目瞭然のように、今回も大量にお金がばらまかれた。

まずは、選挙の翌日から大工が仕事に来るという約束になっていたのだが、予想通り来なかった。予想というのは、選挙で大金が入り飲み過ぎて、二日酔いで来ないだろうというものだ。それでも、もう一人、ヘルパーは、少し遅刻してやってきた。いわく、私はちょっとしかもらっていない。1800ペソだとのことだった。もらったお金が少ないので働かないといけないということか。大工の方は、自分のやっているカラオケで、お金を配っているので、夫婦で5千ペソずつもらっているというのが、ヘルパーの説明だった。試しに他の島の人にも聞いてみたら、やっぱり周囲の人たちがもらっているということだった。

3期前にアロヨが票をごまかして大統領に当選した選挙では、特に知事が大激戦で一人3千ペソと言われていた。それ以外も、下院議員、副知事、市長その他、それぞれ、少なからぬ現金がばらまかれ、現地の人々には大きな実入りで、マニラに出稼ぎに行っている人まで、わざわざ投票に帰ってきていた。

以前の選挙でこんな例もある。今回と同様大工に仕事を始めてもらうので、馴染みの業者に材木を発注に行った。すると、選挙前のしばらくは、いつ票を買いに来るかわからないので、家でずっと待機していないといけない。選挙が終わったら木を切り始めるということだった。選挙の前後はなかなか仕事にならない。

大統領が腐敗の根絶を言い出したはずだが、ヘルパーによると大統領の陣営に買われたそうだ。今回こそ歴史的な大きな転換になるかと、少しは期待したが、フィリピンは変わらない。

それでも、シキホール島で、これまで3期、知事や下院議員などの要職を買票で独占してきた一族が今回は全滅したそうだ。Political dynastyと呼ばれた王朝の崩壊。これには、部外者ながら、祝杯をあげたくなった。


(以下2013年5月16日追加)

普通の日本の感覚では、一言で けしからんということになりそうだが、考えさせられることは多いし、いろいろな見方ができる。

貧乏人から金持ちに、あらゆる手段でお金が巻き上げられていく体制が確立しているフィリピンで、唯一金持ちから貧乏人へ、大金が流れていくのが選挙であるとも言えよう。

選挙民は、米も買えて潤っていて、ばら撒きが、役に立っているという見方もできる。

「まるで公共福祉の一環で、日本の子供手当てのよう。
清廉潔白だが無能な政治家と、賄賂を沢山取る代わりに選挙民に買収資金と言う名でばら撒く政治家。
果たしてどちらが政治家として役に立っていると言えるのか。」 

という疑問をメールで送ってもらった。


今回の選挙では、売買票はなくなると言ってきた近所の人のように、お金を受け取らなかった人もいる。正直者が馬鹿を見たとも言えるだろうし、正義を貫いたとも言える。

多くの人がお金を受け取ったのを確認した後、あなたもお金を受け取ってくるようにと勧めた方が良かったのか。
「よくぞ受けとらなかった。」と褒めてあげたあと、他の人が受け取ったよりも多くの金額を、ご褒美にあげたら良かったのか。
しかし、後者の方は、フィリピン全体でそれをやろうとしたら、ビルゲイツにでも登場してもらうしかないだろう。


(以下2016年5月12日追加)

いつもは15種類くらいおかずが並ぶのに、選挙の翌日は、おかずが2種類しかなくて、困ってしまった。 選挙翌日、買い物客で賑わうシキホールの町

選挙翌日の写真を紹介しておくが、既に前回の選挙の翌日の写真を詳しく取り上げているので、今回は少しだけにとどめておく。毎回、選挙景気の傾向は変らないが、改めて、前回の写真を見直すと、パンも肉、魚も売り切れていた。それに対して、今回も、沢山売れているのは間違いないが、まだ、パンも魚も少しは売っていたので、学習の効果で、選挙マネーに備え、沢山商品を準備していたことが伺えた。

いずれにせよ、選挙翌日の生活は注意が必要であることは間違いない。
ただし、外国人が行くような値段が高いレストランなら、選挙でばら撒かれた金額からは外れるので、安旅以外の通常の外国人旅行者には関係ないはずだ。

ここでは、一体いくらで票が買われるのか、新聞の記事を見つけたので紹介しておきたい。

選挙当日のINQUIRER紙には、各地の売買票価格が紹介されている。それによれば、ビサヤ地方を全般的に見ると、投票者個人には50ペソから3000ペソ程度で、家族全体だと1万ペソ程度まで支払われることがあるとのことだ。

さらに、個別の地域ごとの金額が紹介されていて、ボホールでは、地方の候補者への1票あたり100ペソ〜1000ペソ。また、家族パッケージで3000ペソ〜1万ペソの場合もあるそうだ。タグビラランのある有権者は740ペソ受け取り、ボホールのパングラオでは、有権者は複数の候補から少なくとも1400ペソ受け取った。同じくボホールのBalilihanとGorellaでは、日用品と現金20ペソ〜50ペソ、Ubayでは日用品と現金20ペソ〜300ペソが配られたそうだ。
Samar州のCalbayog市では、100ペソ〜3000ペソとサンプルの投票用紙の入った封筒が有権者に配られ、Samar州の南部では有権者一人当たり相場は1500ペソ〜2000ペソ。島だと5000ペソまで跳ね上がることがあるそうだ。
イロイロ州のある候補は、投票者の家族への教育支援と称して3000ペソ払った場合があり、候補者ごとの一票の相場は500ペソ〜1000ペソとのことだ。イロイロ市のモロ地区に住むある有権者は、副大統領のサポーターから500ペソ受け取り、大統領、副大統領を含む、政党全体への投票だと、相場は1500ペソ〜3000ペソとのことだ。一方、イロイロのあるドライバーによれば、受け取る金額の見込みは前回と同様300ペソで、接戦でないと、金額は少ないとのことだ。

以上のように、マニラのタクシーのぼったくりみたいに、金額はかなりばらついている。

シキホール島では、前回の選挙で、知事の1票に5千ペソ支払われたこともあり、全国レベルよりかなり相場が高そうだ。


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