ホイホイホイ選挙

2004年 6月


2004年5月に行なわれたフィリピンの選挙期間中に、フィリピンで テレビを見ていた人で、このホイホイホイを知らない人はいないだろう。 毎日繰り返し、ホイホイホイが コマーシャルで流れた。

これは何かと言うと、上院議員候補の宣伝で、ホイホイホイと候補者の名前、そして上院議員という3つの言葉が出てくるだけで、あとは歌って踊るだけのシンプルなもの。
それでも、圧倒的な放映回数の多さと、さらに1回のコマーシャルでも何度も繰り返されるホイホイホイと候補者の名前、そしてノリの良さで、選挙の当日も耳から名前が離れず、ホイホイホイと この候補者に投票してしまった人もいるのではと思ってしまう。

ホイホイホイを1回放映するのに、幾らかかるのかと近所の人にたずねてみても、誰も答えてくれない。当たり前の話だ。とにかく、莫大な資金を投入していることは間違いない。

投票が終了し 開票が行われると、思ったとおり この候補はトップを突っ走った。わずか12人の狭き門だが、他の候補を圧倒して当選を果たした。

日本でも、30年ほど前、参議院の全国区があった頃、資産家が大量に資金を投入して、同じような当選の仕方をしたことがあったが、ついつい、それを連想してしまった。

祖父がフィリピン共和国の初代大統領で、マニラの海岸沿いの大通りの名前にもなっていて、当選は 血統の良さ。世襲議員だからであり、ホイホイホイは関係ないと主張する人が多いかもしれない。

しかし、私はホイホイホイの効果が十分にあったものと思っている。

一票の値打ちと一票の値段

日本では、選挙区の定員を、その有権者の数で割った一票の値打ちが話題になる。
これに対し、フィリピンでは、売買票が盛んで、一票いくらか?その値段が問われる。(普通は、買収と呼ぶのだろうが、買い手だけでなく売り手の方も熱心なので、売買票呼んだ。)
地域によっていろいろだろうが、私が住んでいるところでは知事、市長、下院議員は1票3000ペソとのことだ。片っ端からもらえば、有権者一人で1万ペソ以上になる。田舎で収入が少ないので、数ヶ月分の収入に相当する金額である。そのため、ミンダナオやマニラに出稼ぎに行っていた連中まで戻ってきて投票する。

私の住んでいるところは、人口が他と比べ少ないのに、知事や下院議員はいるので、一票の値打ちが相対的に高く、一票の値段も他の地域と比べ かなり高そうではあるが、売買票自体はフィリピン各地で その噂を聞く。

投票日の二日前に 馴染みの材木屋に木の注文に行ったところ、選挙前は、買い手が沢山来るので、その相手に忙しくて仕事ができない。選挙の次の日に木を切り、配達はさらにその次の日だということになった。

こういう状況なので、近所の人に言わせると、このあたりでは、投票率は100%だそうだ。

夫婦だけでなく、祖父母も同居しているような家族だと、まさに大金が転がり込む。 投票しない手はないということになるのだろう。

噂では、私の住んでいる同じ村から立候補した下院議員候補は、選挙の予算が1億5千万ペソだということだった。知事候補には、大きな船を十艘以上所有している大金持ちが立候補した。
一方、前回の選挙では、金権政治で名高い中国人系のフィリピン人が親子で、知事、下院議員に当選し、再選を狙った。しかし、今回は、資金力にまさる新たな候補が出現したので、現職の再選は難しいだろうと予想されていた。
ところがふたを開けてみると、現職の親子が再選を果たしてしまった。

1億5千万ペソというのは、ポーカー・フェースのような、でたらめだったのか?
新たに知事に立候補した大金持ちの方は、資金はあっても出し惜しみしてしまったのか? 謎である。

No good Filipino

投票率が100%というのは、全員買収されていて、売票率も100%ということなのか?
よく分からないが、口々に聞かれる言葉は、No good Filipinoと言う決まり文句である。自分を卑下して言う言葉だが、さすがに後ろめたいのだろう。

選挙後の好景気に沸く

選挙の次の日に市場に買い物に行こうとすると、乗り物に 普段の3倍は人が乗っている。朝の9時だというのに、肉は売り切れ。通常なら早朝 店に並んだ肉を、昼過ぎぐらいまで、市場で売っているのだが、この日は、すさまじい売れ行きである。皆、買った品物を袋に一杯入れて、家路についていた。 選挙後は しばらく、こういう状況が続いた。

選挙が終わるとビールが温くなる

夕方、行きつけの店に食事に行くと、市場と同様 たいそうな賑わいであった。テーブルには空のビール瓶が並んでいて、悪い予感の通り、注文したビールは冷やすのが間に合わず、まだ温かった。


テレビを見ていても、新聞を読んでも、この手の話は見かけない。
私も、少し茶化して書いて 楽しんでいる面があるかもしれないが、ほんとは書きたくない。どこかのNGOが、フィリピンでのボランティアの活動資金を寄付して欲しいと呼びかけるつもりなら、こんな都合の悪い話は、絶対に書かないことだろう。
それでも、現実を知らないと 勘違いしてしまうかもしれないから、敢えて書いている。

薬代が高く そのため病院に行けず、亡くなったりしてしまう子供を救済する目的であるRosa Linda Memorial Fundを再開した。しかしながら、選挙の時期は懐具合が良いので、この時期は、ほとんど意味が無いというのが現実である。

ぞれでも、多くの子供が高いリスクにさらされていることは事実だし、親によっては 正義感が強く、貧しくても売票しない人もいるかもしれない。 こんな胡散臭い国で、そんなプロジェクトをするのは止めるべきだと簡単に片付けるわけにはいかないのである。

良いことも、悪いこともしっかり現実を見据えた上で、どうするべきか考えるのが、正しいやり方であるはずだ。


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