フィリピン帰国大名旅行の課題と対策

2004年 12月


少し前のことだが、私の家の前の海に、日本人とその親戚が魚釣りにやってきた。
と言っても、釣りをしているのは、フィリピン人の妻がいる日本人男性だけで、大挙してやってきた親戚ご一行様は、屋根があるベンチの休憩所 兼 宴会会場で、飲み食いするのが目的だった。
私が様子を見に行くと、フィリピン人の親戚は、「お前も飲め」と誘ってくれたが、昼間から酒を飲むのは好きではないので、それは断って、海に釣りに出ている日本人が帰って来るのを待った。

程なくして彼が帰ってきたので、ここに来るまでの旅行の話を聞かせてもらった。

彼が言うには、各地の親戚を回って来たが、飲み食いや乗り物、贈り物等で多額のお金を使う羽目になり、不愉快なことが沢山起こり、とにかく、二人とも 二度とフィリピンには帰って来たくないということであった。

具体的に言うと、

行く先々で、沢山親戚がやって来て 飲み食いを繰り返し、その費用を当然のように請求される。

やたらと、一緒について来るので、費用がかさむ。例えば、ミンダナオ島の親戚の家からセブ経由でシキホール島まで来たそうだが、夫婦二人だけのつもりが、全部で8人で移動することになってしまった。乗り物だけでなく、8人分の費用はすべて、自分の財布から出て行く。

日本からお土産を一杯持ってきたが、とても足りない。お土産をもらえなかった親戚の中には、自分の分も買ってくるようねだる人も出て来る。

二人の姪に、別々に同じようなことを手配してもらおうと頼んだところ、やたらと値段が違うので、一方は正直で、一方は、ぼったくろうとしているのが分かった。

旅行と直接関係ないが、自分たちの家を建ててもらうという名目で、以前から、多額の送金をしていたのだが、来てみると、家は建っていない。実は、何もしていなくて、お金は他の何かに使い込んでいた。
同じようにして、親の家の修理費を送ったが、家は前のままであった。

多額の出費と、面白くないことがたて続けに起こったため、日本人男性もフィリピン人妻も もうこりごりで、二度とフィリピンには帰って来たくないと言う出す羽目になってしまったのである。


以上は、程度の差はあっても良くある話である。ここで終わると、単なるフィリピンの悪口で終わってしまうが、ここでは さらに話をすすめる。

日本とフィリピンでは、現状経済格差があるのは否定できず、お金を沢山持っている日本人が、財布がわりになって欲しいとフィリピン人が思うのも、理解できないわけではない。
親戚を訪問するなら、お土産を持って行くのは当然だろう。お金を沢山持っている方が、家に泊めてもらって世話になるのなら、みんなの食費を出したり、お礼に少しお金を置いて行ったりするのは普通だろう。

しかしながら、やたらと沢山人が集まって来ては、最初から人の財布を当てにして宴会を始めたり、旅行にずるずると沢山の人がついてきたりするのは行き過ぎだろう。
そんなことにお金を使うぐらいなら、貧しいけど、謙虚な親戚を見つけて、子供がいれば、ノートやポールペン、通学用のかばんや靴、スリッパ等を送ってあげた方が よっぽど役に立つ。

ハゲタカ親戚と謙虚な親戚の両方がいる

フィリピンの田舎では、兄弟姉妹が10人近くいたりするのがざらで、親戚の数も、日本と比べものにならないほど多いのが普通だ。

親戚の中には、最初の例のようにハゲタカ親戚とでも呼びたくなるような人もいる一方、とても謙虚な人も多くいるはずだ。後者は、何かくれと自分から要求してきたりしないし、親戚に
会いに行くと無心にでもやって来たと思われるのが厭で、自分からはやって来ない人もいる。何かしてもらったので、お礼にお金を渡そうとしても受け取らない人も少なくない。

別のタイプの人がいる中で、どうしても 貪欲で あつかましい人が目立ってしまうのは、容易に想像できる。親戚が沢山いれば、よからぬ親戚が、一人でもいる可能性は相当高まり、その人物があつかましくも登場してきて、かならず不愉快な思いをすることになると言っても、過言ではないかもしれない。
とにかく、できれば、謙虚で善良な親戚とだけ付き合いたいものである。


たかられないための対策案

私自身はフィリピンに親戚がいるわけではなく、経験がないので正確なことは言えないが、現地の事情に少しは通じているので、それを踏まえて、仮に私ならどうするという案を考えてみた。

親戚の家に泊まらない

親戚の家に泊めてもらっていては、こちらのペースで進めることは難しく、親戚が沢山集まってきて大宴会の費用を出す羽目になる可能性が高い。
大きな塀で囲まれ、入場料を徴収し、現地の人が容易には入って来れないようなビーチリゾートにでも泊まり、穴熊の守りを固めたいものである。どうして親戚の家に泊まらないのかと聞かれたら、夫婦でプライベートな時間を過ごしたいと言えば、反論される心配はない。

と言っても、これはかなり末期的な状況であり、たちの悪い親戚がやってくる可能性がないのなら、親戚の家に泊めてもらうのが普通だろう。
もっとも、日本人では泊まるのが難しい質素な家に住んでいる場合も多く、その時は、別の意味で 他の場所に泊まることもあるだろう。

親戚の家でない宿泊場所に、大挙して押しかけられては、これが一番高くついて、「策士策に溺れる。」ことになるので、家族だけで泊まりたいという理由をきっちりと説明する必要がある。

自分たちだけで旅行できるようにしておく

親戚にツアーガイドをしてもらわないと旅行できないようでは、心許ない。日本人がスポンサーの親族大移動の旅行になってしまう可能性が高い。自分たちだけで、旅行できるので、ガイドに ついて来てもらう必要がないと言えるようになっておきたい。海外旅行の経験が少ない人は、別の場所で予習しておいた方が良い。

ふらっと出掛ける

早くから連絡しておいたりすると、大挙して親戚が集まってくるかもしれないし、豚が何匹も並んだ大宴会の準備が整っているかもしれない。

「いろいろと準備してもらうのは気の毒だ。」とか、「突然現れて、びっくりさせてやろうと思った。」とか必ずしも外れてはいない理由を楯に、突然訪問するのも一つの手である。
たまたま不在で、会えないことを心配するのであれば、ある期間の相手の都合を聞いておいて、相手が不在でない期間の中で、時間が取れた時に訪問するかもしれないと伝えておくという方法もある。

お土産に歯止めをかける

日本で甥や姪にお年玉をあげた所に、別の甥や姪が現れれば、同じようにしてお年玉をあげないわけにはいかないだろう。ところが、フィリピンの場合には甥、姪が100人いてもおかしくない。自分が日本人ならその半分程度で収まるかもしれないが、それでも途方もなく多い。そのため、日本と同じようにはいかない。お土産と言っても、みんなで分けて食べられるものを持って行くとか、全部でこれだけしかなので、じゃんけんでもしてみんなで分けてもらうようにするとか、歯止めがかかるようにする工夫が必要だろう。

私の場合でも、米国やメキシコ等で買ったTシャツだけでも すでに数百枚 フィリピンの知り合いにあげているが、全然足りていない。


次に、今回取挙げている場合だけに限らないが、フィリピンに来てから 注意した方がよいことを、付け加えておく。

お金を貸してくれと言われたら

私自身はフィリピンでは、基本的にお金を貸さないことにしているので、貸せと言われるだけで、貸した後の経験はほとんどないが、一般的に、日本人がフィリピンでフィリピン人にお金を貸しても、返ってこないのが普通であろう。

お金を貸してくれと言われたら、私の場合には、例えば、相手が、「ビジネスの資金に1万ペソ貸してくれ。」と言ってきたら、「こちらは、ビジネスを始めるのに1000万ペソほど、不足しているので貸してくれないか。」と言い返せば、相手も それ以上 何も言えなくなる。
私自身、いろいろなビジネス・プランを持っているので、これは嘘ではない。もしも、ビジネスのプランがない人なら、高級車など、何か買いたいものを挙げて、その費用を貸してくれと言えば、嘘にはならない。

飛行機代や日本での収入その他を聞かれても答えない

日本の感覚では、たいした金額でなくても、フィリピンでは大金であることが往々にしてある。
フィリピンに来るための飛行機代などは、最近は安くなっているが、それでも、フィリピンの現地の人からすれば大金だ。いくらかと聞かれて、そのまま答えらたら、びっくりされてしまい、そんなお金が払えるのは大金持ちだということになりかねない。大金持ちなのだから、あれも払ってくれ、これも払ってくれと財布代わりにされる可能性が高くなる。

日本での収入がいくらあるとか、たまたま持っていたブランド品の値段がいくらだとか、そんなことをそのまま答えるのは、財布の紐をガバガバにしているのと同じと言って良いだろう。
そんなことはないと願いたいが、金持ちだと思われ、その情報がどこかに伝わり、万一 誘拐されても、それみたことかと言われるだけだろう。

「一番安いのを買ったけど、それでも、私にとっては、とても高い。」とか、「収入はあっても、物価が高いので破産寸前だ。」とか、適当にはぐらかして答えておくのが無難である。
実際にも、日本では 日本人は苦しい生活を強いられていることも多いのである。


少し悲しくなるような姑息なことを、書いているような気もするが、残念ながら、フィリピンには、とてもよい人とそうでない人が入り混じっている。良い人のところに物やお金が回るようにと願うことは間違ってはいないだろう。そのためには、怪しい人物の上手をいくようなノウハウを身に付けることも必要だ。そういったことまでゲーム感覚で楽しめるタフさを身に付ければ、フィリピンに滞在するのは、すべて楽しいことばかりになるはずである。




エピローグ

冒頭にあげた夫婦の場合、亡くなった父母や祖父母の土地で、フィリピン人の妻も権利を持っているところに家を建てようとしていたのであった。ところが、家を建てるべく送ったお金は、まんまと使い込まれて、家は建っていなかった。現地の親戚の生活が苦しかったとか何か理由はあったのかもしれないが、この夫婦も憤慨しているように、ここの親戚は信用できないと言う他あるまい。

(ここと言っているのは、残念ながら私が住んでいるのと同じバランガイ(村)のことである。この親戚に、お金を使い込んでしまった止む終えない理由があったことが判明すれば、後ほど訂正を書くが、現状では この親戚のことを好意的に書くことは難しい。)

一方、この夫婦は二度とフィリピンには来ないと言っているが、これは 少しもったいないと思う。定年退職してから、そんなに大きくない家を建てて、日本の冬の間だけでもフィリピンで暮らすのは、とてもお得だからだ。日本の感覚だと、土地があるのなら家を建てようということになるが、フィリピンの田舎では土地は非常に安い。父母や祖父母の土地は無視して、他の良い場所を探せば良いのである。

近くに親戚が沢山住んでいると、ここでの例のように、いろいろと出費がかさむことは目に見えている。また、家が大きいと、そんな大きな家を建てるお金があるのは金持ちだと見なされ、何かとお金を払う羽目になる可能性が高い。いつの間にか、家に親戚が沢山住み着いてしまっているというのがお決まりのパターンと言える。祭りでやってきて、そのまま何ヶ月たっても帰らない親戚もよく見かける。

親戚が近くにいない場所に、そんなに大きくない家を建てて暮らすのが、お得な方法だというのが、私の意見である。

ここでの夫婦の場合には、フィリピン人の妻の方も、親戚に愛想をつかしているので、これで十分だが、一般的には、フィリピン人の配偶者の方は、自分の故郷に住みたいと思うのが普通だろう。その場合には、さらに上手を行くノウハウが必要だが、それについては、また別の機会に書くことにしたい。


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