日曜日に香港のセントラルに集まるフィリピン人

2010年7月



香港島のセントラルの様子

プラダ横の道を占拠するフィリピン人
(平日は普通に車が通る。)

日曜日に香港のセントラルへ行くと、出稼ぎフィリピン女性を大量に見かける。大抵は、中国人の家庭で家政婦として働いている人たちである。休みの日曜日に ここの集まって、同郷の人たちと おしゃべりや食事、トランプなどをして楽しんでいる。

前回 この光景を見たのは、十数年前のことであり、その時の私の記憶は、高級ブランド店はかたく扉を閉ざし、開いているのはフィリピン人向けの両替商だけ。周辺の通路は座り込んだフィリピン人が完全に占拠し、その数5万というものである。しかし、先デジカメ時代のことであり、バジット・トラベラーである私の旅では、当然のように写真は残っていない。

今回 たまたま日曜日に香港に行ったので、以前の記憶を確かめに、セントラルに足を運んだ。
その結果、5万人というのは、大げさで、少し歩いた範囲で判断し 数千人と下方修正した。しかしながら、その後も、ウロウロしていると、近くの公園を占拠するフィリピン人や 通路に設置され フィリピンの番組を放映する大画面のテレビの前の人だかりなど、いろいろなところでフィリピン人を見かけた。合計1万人を越えているのは間違いない。

この光景を見て一番思うのは、日本へのフィリピン人の出稼ぎとの対比である。最近は米国のクレームの結果 下火になったが、日本へのフィリピン人の出稼ぎと言えば、タレントと呼ばれる人たちでフィリピンパブで働く女性が大多数であった。タレントと言いながら、その実態は、現地の芸能人ではなくて、普通の人たち。外国人でタレントなのだから、外タレと呼べば良いのではないかと言いがかりをつけたくなったり、タレントと呼ぶのは業界用語と考えてみたり、いずれにせよ、かなり違和感を覚えた。しかしながら、香港で見かけるフィリピン人と比較すると、確かに日本に来た人たちはtalentedだと言えそうだ。香港では、ほとんどが40代か50代のおばちゃんばかりなのに対して、フィリピンパブで働くために日本にやってきた人たちは、若くて美人ばかりであろう。

どうも差別的とも取られかねない書き方になっているが、そういう意図ではなくて、日本では、フィリピン人と言えば、水商売の夜の仕事に就く人が多いという偏見が少なからずありそうで、そうではない事例として、香港で働くフィリピン人を取り上げた。香港の人にとって、フィリピン人のイメージは日本とかなり異なるはずだ。

香港の場合、若くて美人のフィリピン女性が、子供の居る家庭でメイドとして働いていては、トラブルのもとになるという話もありそうだが、ベテランと思える人が多いのは、経験を求められるからだろう。スターフェリーに乗っていたら、小さな子供を連れた中国人の夫婦と、その家で働くフィリピン人のメイドの4人連れが乗っていて、フィリピン人も広東語で話していた。 シンガポールで働くメイドなら英語だけで許されそうだが、香港では、英語だけでなく、広東語も要求されるのだろう。

十数年前に見た時は、三十代も多かったように思う。そのまま働き続けた人が多いので年代が上がったのかどうか 聞いてみようと思ったのだが、内輪で固まって話している人たちばかりで、話しかけることができなかった。フィリピンの田舎なら、相手もこちらに興味を持っている場合が多いので、話しかけるのは簡単だが、ここでは難しかった。

これに対して、シキホール島に住む知り合いのフィリピン人の家族では、娘がサウジアラビアにメイドとして出稼ぎに行っているが、そちらは二十歳くらいの年齢である。イスラム教で一夫多妻の世界であり、インターネットで検索すると、メイドに入った家から別の家に売られるという人身売買の話も少なからず見つかるし、とにかく、トラブルがないことを願っている。

このように、フィリピン人の出稼ぎは、行く先の国によって 傾向がかなり異なってくる。

10数年前見かけたのと同じスタイル
二階の遊歩道の両側を占拠、
トランプをしている人が多い
ダンボールでかなり高くまで仕切っていて、関係者以外は近寄り難い感じだ。

前に置いてある大きなテレビでABS-CBNを見ている人たち。
200名程度

BDO、吉野家、ケンタッキーなどが並ぶ通りの一角
銀行の前に座っているのも、店で食事しているのも大抵フィリピン人だ。

デパートの中に座るフィリピン人のおばちゃんたち。(ピンボケを選んだ)

近くの公園もフィリピン人が占拠

地下通路にも多くのフィリピン人

プラカードで、携帯電話を宣伝。
フィリピンに安くかけられると言っている


同様の光景は、日曜日、シンガポールのオーチャード通りでも見かける。しかし、道で座り込もうものなら、シンガポールでは逮捕されかねないのか、香港のように道端に座り込んでピクニックをしているフィリピン人は見かけなかった。


今回 取り上げたこの話題について、肯定的な面と否定的な面の両方を感じる。道端をダンボールで囲って占拠しているのは、日本だとホームレスのようだ。普段は中国の家でこき使われているので、たまの日曜日に、羽を伸ばすために、道端を占拠してピクニックするくらいは許容範囲だろう。みんなで集まって、楽しい時間を過ごしているので微笑ましい等々。しかしながら、少なくとも、フィリピン人にとっても、この光景は世界に誇れるものではなかろう。

現場の状況についてもいろいろ思うが、さらに考えされられるのは、経済格差についてである。

日本人も将来は、お金持ちの中国人に雇われ、こき使われ ストレスを貯める時代が来るのかもしれない。香港で働くフィリピン人のように、日本人が中国に行って、中国人の家の仕事をするというのは想像しにくいが、日本にやってきて住み着く大金持ちの中国人については、常々想像してしまう。それは、大金持ちの中国人が日本に豪邸を建てて住み始め、高級車を乗り回し、若い日本人女性を高給で雇って、ビキニでも着せて 回りにはべらせ メイドとして働かせ、剣幕を起こして中国語で、大声で叱りつける。日本人はとても続かず、数ヶ月したら入れ替わる。こんなことが、現実に沢山起こったとしたら、戦争になってもおかしくないだろうから、そんな事態にはならないとは思う。
それでは、なぜそんなことを想像してしまうかと言うと、似たようなことがフィリピンで起こっているからである。ビキニのメイドはないだろうが、外国人がやってきて、あばら家の横に豪邸を建てて、贅沢な暮らしを始めれば、近くに住んでいる現地の貧しい人々は面白いはずがない。周囲も貧しければ、自分自身の貧しさもそんなに感じないだろうが、最近では相対的貧困と言う言葉が主流になってきたように、回りで金持ちが贅沢な暮らしを始めれば、貧しい人たちが面白くないのは容易に想像できる。
中国人と日本人の例なら、日本人はかなりの高給でないと働かないだろうが、フィリピンの場合、現地で雇われている人は、かなりの薄給である。
このような現実を、私のように資本主義の大矛盾と呼ぶ人もいれば、資本主義だから当然だという人もいるはずだ。


どうして、セントラルか?

思いついたので、もう一つ補足しておきたい。セントラルはオフィス街で、ブランド物の店が立ち並ぶ一等地なのに、どうしてこんなところにダンボールを敷いてピクニックをするのかということである。
これについて私が想像する理由は、スターフェリーの乗り場だということである。香港島と九龍の間の地下鉄が出来る前から、フィリピン人のピクニックが始まっていたのかどうかそこが不明だが、もしも地下鉄前からの長い歴史があるなら、船着場で集まるのが便利という話は当然である。さらに、もう一方の尖沙咀より場所がある。
一方、地下鉄後に始まったのなら、これは、日本の高速道路無料化の社会実験で起こっている競合と対比して考えられそうだ。すなわち新たに 地下鉄ができて、普通ならスターフェリーはお陀仏さんのはずだ。もしくは、ほとんど観光客専用に変貌しているはずだ。ところが、スターフェリーは現地の人の足として、現在も幅広く利用されている。なぜかと言えば、地下鉄で香港島と九龍の間を移動すると、やたらと割高なのに対して、スターフェリーは昔ながら安いのが大きく影響しているのは間違いなかろう。私の場合でも、以前に香港に来ていた頃には、スターフェリーなどほとんど乗らなかったが、最近はチョンキンマンションのドミトリーに泊まり、経費削減に走っているので、やたらとスターフェリーに乗るようになった。価格を決める当局の胸先三寸でスターフェリーの命運が決まるのは容易に想像できる。
災害で万一停電した場合に地下鉄が止まることも想定され、地下道が不通になることまで想定すれば、スターフェリーは危機管理の意味でも有用とも言えるはずだ。ここまでは、とくに確認してはいないが、外れてはいないだろう。
フィリピン人のピクニックの話に戻ると、「どうしてセントラルなの?」と聞けば、「スターフェリー安いもん。」と答えるフィリピン人を見つけるのは容易であろう。しかし、それが個別の意見か、共通の理由なのかは分からない。スターフェリーに絡めた答えが私の予想だが、インターネットで調べれば、もう少ししっかりしたことが言えるかもしれない。しかし、それよりも、いつか機会があれば、現地で初期の頃から参加している大御所を見つけて、理由を聞いてみたい。

今来ている人にどうしてここに来るのか聞けば、「みんなが来るから」という答えになりそうだが、それはここでは関係ない。
教会の人が来て、公園で説教をしているのを見かけたので、そもそも、それが人寄せの始まりという予想もできるが、私としては、スターフェリー説を予想しておきたい。


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