老後に備えて、いくらマイルを貯めれば安心か?

2002年7月



老後に いくら貯えがあれば十分かという話題は、たびたび雑誌等に登場する。もちろん、マイルではなくて、預金や有価証券などの蓄えのことだ。
某航空会社の機内誌によれば、米国では 介護のシステムが整った家に住むには、年間4万ドル。場所によっては、10万ドルかかるそうだ。これに対して、老後も引き続き働く人なら、不意の出費に備えるだけで、生活費の貯えなどはいらない。
また、私の知り合いのフィリピン人で、第二次大戦の兵士でもあるJoeなどは、1ペソ(2.5円)のパンを買うお金が無いと 自慢している。そのくせ、闘鶏のダービーで 5000ペソ(1万円余り)すってしまったなどと豪語している。

同じ人でもそうだが、それぞれの人の暮らしぶりによって、必要な貯えは異なるということだ。

それでは、マイルの方はどれだけ貯めれば安心か。

マイルのことなので、これも 航空会社の機内誌の守備範囲と言いたいところだが、もしも 航空会社に対し、「機内誌で、そのような記事を書くつもりはあるか?」と問い合わせたとしても、「そんな馬鹿馬鹿しいこと、書くはずがない。」と、直接には言われないまでも、暗にそういうことをほのめかすような 当惑した返事をもらうだけだろう。

またまた、前置きが長くなってしまったが、そういうわけで、ここでは、老後のマイルの備えについて書いてみることにする。

ところが、老後の備えは、マイルに関しても同じで、必要なマイル数は人によって異なる。それが結論であろう。また 不良債権化の可能性もあり、そんな何十年も先に向けて、マイルを貯めても 仕方が無いとも言える。そこで、ここでは どれだけマイルを貯めたら良いかを検討する上で、考慮すべき要因について考察する。


不良債権化

最も恐るべき事態である。航空会社が倒産して消滅。はたまた吸収合併されるなど、競争の激しい航空業界では、常に不安は付きものだ。
ある航空会社は、新品の機材を揃え、新らたな顧客が増えると思っていたのも束の間、いったんテロでも起これば、高固定費体質で 赤字にあえぐというようなことも あり得る。
また、別の航空会社では、古いDC-9を使いつづけた結果、固定費は押えられたものの、事故が起こらないかという客の不安に対して、実績があるから大丈夫という 少々強引な説明を 続けなければならない。そんなこともある。
マイルの不良債権化がないように 航空会社を決めようとしても、それほど単純ではない。


悪性インフレ懸念

マイルのインフレの要因には2つ考えらえる。まずは、物価の上昇に対応するもので、航空会社が特典旅行に必要なマイル数を引き上げる場合である。
この場合は、引き上げの内容にもよるが、マイルを貯めていては損なので、絶対に貯めておかなければならないマイルを除き、マイルを使ってしまった方が得である。
以前、UAが米国・ハワイ行きの特典旅行に必要なマイル数を引き上げた時、大変な取り付け騒ぎが起こった。私も この時、貯めていたマイルをすべて使ってしまった。UAのオフィスに発券に行った時には、私の横で、家族全員のハワイ行きのファーストクラスのチケットを発券している人を見かけたりした。
取り付け騒ぎを恐れて、航空会社は、極端な必要マイルの切り上げはやらないと期待したいが、こればかりは、何とも言えない。

もう一つのインフレは、獲得できるマイルの増加。つまりマイル供給の増加である。これには、大きく2つの場合が考えられる。

まずは、飛行機がとてつもなく高速化して、その結果、外国へ日帰りなどの短期で出掛ける人が増加。海外旅行が日常茶飯化して、客が貯めたマイルの総数が 爆発的に増える場合である。昔 貯めたマイルでは、遅い飛行機しか乗れないとか、そんな遅い飛行機は無くなってしまって結果的に昔貯めたマイルはほとんど意味が無くなってしまった。 そんな場合である。
ちなみに速い飛行機に乗るには、より沢山のマイルを要求されることは 容易に想像できる。
日本からシンガポール等に行く超高速の旅客機ができたら乗るかというUAのアンケートに、ずっと前 答えたことがある。しかしながら、以前にアンケートであったとしても、今の時点で、こんなことを書いていると、空想的だとか批判を受けそうだ。 飛行機が化石燃料ではなく、画期的な高エネルギーを持つ新燃料で飛ぶようになる マッハ15のスピードの世界である。

もう一つのマイル供給の増加は、航空会社のボーナスマイルの乱発がある。
この場合には、航空会社は、客の貯めたマイルで経営を圧迫され、特典旅行に必要なマイルも引き上げることになるだろう。そうすれば、さらに、ボーナスマイルを増やさないと客は納得せず、天文学的な悪性インフレへと突入する。 これも単なる空想と、笑う方が多いことだろう。

デフレ・スパイラル

既に、沢山マイルを貯めた人にとっては、とてもうれしく聞こえる言葉ではある。
需要と供給の両面から、デフレについて考えてみよう。

需要面では、戦争やテロ、転変地異等で、航空需要が極端に落ち込むことが考えられる。
この時、既に歴史が示すように、航空会社は、運賃値下げ、特典旅行に必要なマイル数の引き下げ、新たなボーナスマイルなどで対応するだろう。
しかしながら、マイル数の引き下げでは、航空会社の収益改善にはつながりにくい。すなわち、ほとんどマイルを持っていない人が、まず有料で飛行機に乗る。その後、引き下げられたマイルで特典旅行を楽しもうと考える。 そういう乗客がいれば航空会社に収入をもたらすのだが、多いとは言えないだろう。

供給面でのデフレで まず思い浮かぶのは、格安航空券では100%のマイルはもらえなくなることだ。既にそういう航空会社も多い。それから、上級会員のボーナスマイルの引き下げがある。これらは 将来 あるか無いか何とも言えない。 
あったら怖い。あったら怖い。 ないと期待するしかあるまい。
しかし、万一こういう事態があるとすると、デフレ・スパイラルの引き金には なりそうだ。

マイル有効期限の復活

これも、あったら怖い。 やはり、ないと期待したい。


以上は、マイルについて直接検討したが、他にも考慮すべきことがある。

為替の影響

日本は典型的な二重経済で、自動車と電機という国際競争力のある二大産業のお陰で、強い円を保ててきた。もしも、1ドル180円にでもなれば、日本車が とてもお買い得になり、世界を制覇しかねない。実際には現地生産が進んでいるので単純にはそうならないが、特に米国の自動車産業は黙っていないだろう。 これが例えば、フィリピンのように競争力のある産業がほとんどないと どうなるか。ペソはペショ、ペショ。値打ちが低いので、現地の人が海外出掛けるにも旅費の工面が大変だ。マイルを貯めるどころの話ではなくなってしまう。

競争力のある産業が将来も 日本に あり続けるかどうかが大きな焦点だ。

日本の産業が全滅して、円が暴落することを想定するなら、将来の円建て航空運賃の高騰に備え、マイルはいくらでも貯めておくべきだろう。旅費も ドルとユーロにでも分散して貯めておけということになるが、とても悲しい想定だ。


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