ラーニング・センター・プロジェクト

進捗報告 2010年10月

2010年 10月作成



最近のラーニング・センター

製作中のモバイル教室

概要

・ラーニング・センターを開設して3年目になるが、未だ受講者は多く 盛況と言える。フィリピン在住の日本人の知り合いの弁では、この手のプロジェクトは、最初は物珍しくて沢山人がやってくるが、一年もすれば誰も来なくなり、大抵つぶれてしまうということだ。3年続いているのは フィリピンでは画期的と言えそうだ。実際には、毎日のように いろいろな問題が発生していて、とても百点満点とは言えないが、続いているだけでも合格点で、多くの人から関心を持ってもらっているのは、まずまずの結果と言える。
しかしながら、職業訓練をしているのに、卒業者が実際にどれだけ収入、仕事を得られたかというと、まだまだこれからである。

・高校卒業資格試験の昨年度の結果が発表され、150名の合格者を出し 増加を続けている。ただし、試験が難しくなった影響で、合格率は少し低下した。難化の大きな点は、作文の題が1つから12に増えたことで、新しい題が11加わった。受験者ごとに別の題が一つずつ割り当てられる。2010年10月にも試験があったが、新たに3つ加わり15に増えた。

2009年10月 合格者150名、 
        合格率 約42%
2008年10月 合格者 142名
        合格率 57% 
2008年6月  合格者17名 
        合格率17%

実際には ラーニング・センターだけで教えているのではなくて、シキホール島の6つの町で、それぞれDepED(Department of Education)の先生(Mobile teacher)が教えていて、ラーニングセンターはその一部を担っているに過ぎないとも言える。しかしながら、試験の直前になると、多くの受験者を集めてラーニングセンターで模試を行い、試験の申し込みの受付の場となり、Mobile teacherの拠点になり、いろいろと活用されているのも事実である。合格者や合格率の伸びに、ラーニングセンターが大きく寄与しているのは間違いない。
・懸案であったモバイル教室は ほぼ完成し 試用を開始していて、詳細は別途紹介している通りである。 道さえあれば山奥など僻地に移動させることも可能で、ラーニングセンターを各地に沢山建てるのに比べて、コスト、機動性、カバレージ(対応する地域の割合)など、いろいろな面で優れている。これも他のプロジェクトと同様に実験の一環で、他の人の参考にしてもらうために、いろいろと情報を公開している。


各コースの経過

ミシン

・受講者は増減を繰り返しているが、機材を順次増やしていき、設備は 一度に10名程度の受講者が来ても十分対応できる状態になっている。ミシンが故障しても、溶接や自動車整備の男性の先生によって、ある程度までは 自前で修理できるようになった。
・日本から送ってもらった布を実習に利用していて、カーテン、カバン、ベビー服 その他、いろいろと試作している。練習で作った作品を売って、その代金で新たな材料を買うというループができるよう模索している。
・着物のリメイクのプロジェクトも継続中で、大学生が作品を売って、学費の何割かを捻出できていて、それなりに良い結果が出ている。

実習の様子

ベビー服のサンプル

パソコン

・パソコンの使い方を習いたい人は多いので、順次新たな受講者を受け入れている。しかしながら、以前からの継続課題である2年目以降のコースが立ち上がっておらず、修了者が何か仕事を出来るレベルに達するには、引き続き練習が必要と言える。
仕事を出しても良いという訪問者もあり、与えられる仕事に必要なスキルだけ練習して深掘りする方向と、先生の方は できるだけ多くの受講者に教えたいという気持ちが強く、この二つが両立できておらず、レベルアップが継続の課題となっている。
・山奥などラーニングセンター以外の場所へ パソコンを貸し出し、練習してもらう取り組みも継続中で、ラーニングセンターを始める前から約10年続けている。電気を引けない家が多いような地域で、子供たちにパソコンを貸し出すのは、特に将来の可能性という観点で意義が大きい。子供たちが目を輝かせて、パソコンの画面を見ている姿が印象深い。

パソコンのクラスの様子

・インターネットは、USBの小型モデムを使い、ラーニングセンターを含め、シキホール島の広い地域で容易に接続できるようになった。ただし、新たな出費を抑えるため、既にISPと定額の契約している私の自宅でインターネットの講義を計画中である。

料理

・作った料理を売って 自前で材料費を稼ぐという計画がなかなか進んでいない。理由は単純で、(1)カポイ(疲れる。面倒臭い。)(2)食べたい。この二つである。
・先日、ボルネオに行って、コタキナバルでかなり大々的に料理教室を開いている先生といろいろ話をしたが、料理のレベル、レパートリーなども含め、こちらとはかなり違っていた。ケーキだけで、優に100種類を越え、これまでに作った料理の写真を、すべて、分厚いファイルに収めていた。それを見たら、この先生に習おうという気持ちにさせる販促のツールである。それは余談だが、そちらは、主に 有閑マダム、もしくは、開業資金があり これからビジネスを始める人たちが習う かなり授業料が高く、レベルも高い料理教室、もしくは調理師専門学校である。材料費が課題になることはあり得ない。一方こちらは 自営を目指す人は少なくないはずだが、貧しい人たちへの無料の料理教室である。材料代くらい支援してあげたらどうかという意見も含め、人により いろいろな見解も出て来そうだが、自助努力という言葉が好きな私が仕切っているので、簡単には解決しない。

ソーセージを作っているところ

溶接

・ラーニングセンターのコースの中では、一番仕事に結びつきそうであり、熱心に実習が続けられている。
・昨年は、ラーニングセンターの設備としての駐車場のフレームを主に作成してもらったが、いつまでも他に必要な設備は特になくて、最近は練習用に窓の鉄格子を受注している。

鉄格子の製作

昨年度作った駐車場のフレーム
日本からカバーをもらう予定

自動車整備

・講義、実習を継続して実施している。
・実習用の故障車の修理用の部品を探すことになっているが、あまり進展がない。

課題と対策

・ラーニングセンターでは課題が多く、リストにして、順に対策しているところである。
そのうち いくつかを以下に紹介しておく。
・以前に鍵問題を紹介したが、そちらは、鍵が開かないので、しばらく授業が行われないという お粗末なことになっていた。影響のレベルが全然違うが、今回は、類似の問題で時計問題が起こった。教室に時計があった方が良いので、壁掛け時計を二つ買ってラーニングセンターに取り付けておいた。二つなのは、どちらか一方は なんらかの理由で早々に止まると予想したからで、二重化システムのつもりである。ところが、程なく二つとも止まった。メンテのルールが決まっていないとも言えるが、誰も対応しないので、私が不在の間、しばらく放置されていた。「止まっている時計を訪問者が見たら、『こいつら やる気がない』ということになり、誰も支援してくれなくなる。」というような捨て台詞も通用しない。壊れてもすぐには修理せず、放ったらかしというのが、フィリピンの標準的な対応と言える。
その時は電池の交換で動いた。そして予備の電池も渡しておいた。しかし、しばらくしたら、また両方止まった。今度は電池を交換しても動かなかった。壊れてしまったようである。一番安い時計を買ってしまったので、安物買いの銭失いだったとも言える。そこで、少し高い時計に変えたところ、その後2ヶ月ほどは そのまま動いている。100ペソから200ペソにアップグレードしたという程度である。
私の家でも、100ペソクラスでも動き続けている時計もあり、せいぜい300ペソ程度のものまでしか買っていない。高級そうなものを買ったら盗まれる可能性が高くなる。日本の時計店では、8000円ほどで 太陽電池も付いていて 5年や10年止まりそうにない時計もある。この手の時計を買うのは、ラーニングセンターの方が、私の自宅より格段に良くなって 納得しかねる。そんな高い時計を使うのは、ラーニングセンターを数百万、数千万円の予算をかけて開くようなものとも言え、それは有料の学校であろう。こちらは、コストパフォーマンスを追求したいので、できるだけコストダウンしたい。価格と品質のトレードオフであるが、落とし所が そう簡単には決まらない。
とりあえずは、200ペソクラスの時計をあと一つか二つ予備で買っておき、予備の電池も用意しておくということになりそうだが、どこへ行ったという問題は起こらないで欲しい。

・プリンターを導入できない問題もある。自宅にプリンターを買ってあるものの、新品で箱に入れたまま 何ヶ月もラーニングセンターには持って行けない。利用のルールを確立しないと 誰彼かまわず、勝手にどんどん使ってしまうかもしれないという話もあるが、一番の課題はインクのリフィルである。リフィルなどというとプリンター・メーカーから嫌われそうだが、フィリピンでプリンターを支援するなら必須であろう。話は長くなるので、詳細は別途説明したいが、町で例えば2ペソで印刷できるが、準正のインクでは とてもその値段では無理である。
これは、ちょっと大げさに例えれば、食料不足の被災地の支援に、松坂牛を大量に送るようなもので、もらった人は確かに嬉しいが、完全にオーバースペックで、同じ予算で、もっと沢山の食料を買って送るべきだろう。
私の家で 以前から使っていたプリンタでは、リフィルは調子よくできて、インクは大きなボトルで安く買えたので、大量に印刷しても何ら問題なかった。古い型で、ヘッドが徐々に故障し、今でも特定の色なら何とか印刷できるので、そちらも使い続けているが、これでは、特定の目的にしか使えないので、別のプリンターも買った。しかしそちらはリフィルがうまくいっていない。インターネットで検索してその指示の通りにリフィルしても、しばらくしたらインクが詰まってしまった。たぶんインクが少し違うのであろう。ラーニングセンター用のプリンタは、同じメーカーのさらに新しい型式だが、類似のインクカートリッジである。
とにかく、誰かが安くリフィルできる方法を見つけて来ないと、ラーニングセンターにはプリンターは導入できない。日本でも、リフィルのインクはいろいろ売っているが、そちらは、フィリピンで売られているものに比べ、通常かなり高い。

・最後にもう一つ課題を紹介しておく。
パソコン教室の先生で、ラーニングセンターの管理全般を担当している女性の無給状態が続いている。最初は、教員資格試験に合格すれば、採用という話になっていた。そして、試験には無事合格し、リーマンショック後のアロヨ政権の景気対策で、臨時で少しだけ雇われた。しかしすぐに無給に戻り、今度は、シキホールの教員採用試験を受けよということになり、試験の結果の順位が出て、その順に採用されることになったが、教員の欠員がないので、採用されていない。いずれにせよ ラーニングセンターでの採用ではなくて、近くの学校で働くだけである。

その他

前回の報告で挙げた作業進捗のリストを更新し、新たに始めた項目を追加した。

項目

進捗

説明
本棚・保管棚

ほぼ終了
食材・布切れなど、材料の在庫が増えたので、それらの保管場所として棚を複数作った。
教科書、問題集、辞書の調達

ほぼ終了
良さそうなものが見つかれば、さらに追加する。
図書の調達

未実施
中古のペーパーバックを調達して、蔵書としておいて置けば、役に立ちそうなので検討中である。数が必要なので、安い本を探してバーゲンを待っているところである。
ミシン修理

ほぼ終了
旧式のミシンの修理が1台残っているが、他は修理済み。
トイレの建設

未実施
バランガイホールと共用を検討しているが、専用で欲しいという希望も出て、調整が必要になっている。
移動教室

ほぼ終了
一部を除き、作成済み。
自動車整備実習車の修理

検討中
修理部品の調査中。
車庫の屋根の取り付け

未実施
日本から部材を取り寄せ中。


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