自腹、会社腹

2006年 2月




そこそこの給料をもらっている管理職が、会社腹なら海外出張で飛行機はビジネスクラス。それをなんとかアップグレードしてもらいファーストで行けないかと考える。ホテルは当然五つ星で、ヒルトンかハイアット・クラスに泊まろうとする。ガイドラインはあったとしても、基本的にホテル代が実費で支給されるので、安いホテルに泊まっては、自分は損するからだ。それが、今度は、会社から長期で休暇をもらえ自腹で旅行することになるとどうなるか? 当然 飛行機はエコノミーで、2000〜3000円で泊まれる安宿はないかと、探し始める。

これが現実だ。

日本の某有名旅行ガイドブックのスタッフが米国に行き、レンタカーで現地を取材して回っている日誌をインターネットで公開しているのを読んだことがある。
通りがかりで、50ドル、60ドルのモーテルがあるのを見つけて、安い安いと言っている。普段は、上の出張者のように名の通ったホテルにしか泊まらないのだろう。私だったら、米国全体から安いところを探し、20ドルのモーテルに泊まろうとする。モーテルしかないならそうなるが、普通は相部屋のホステルだ。

外国の本屋や図書館で見る限り、世界中で最も沢山売れている旅行ガイドブックは、略称するがLPだろう。こちらの著者は、見るからにバックパッカーだ。その人たちがフリーランスのライターになり、現地を周りながら、原稿を書いている。高級ホテルの宿泊代が実費支給されるので、いいところに泊まろういうのとは 全く違う発想の人たちだと思われる。

なぜそう思うかというと、まずは、ホテルがクラスごとに書かれている その順番だ。安宿から順に書いているのがLP. その反対が、日本の有名ガイドブックだ。そして、LPでは、安宿の情報が満載だ。これに対し、日本の某有名ガイドブックでは、高級ホテル1軒に、紙面1枚を使っていたりして、安宿の情報は、最後に申しわけ程度に書かれているか、それもないと言った具合だ。紙面1枚に どのような利権が渦巻いているのかと、思いを巡らしたくもなってしまう。掲載料として、ガイドブックの出版元にいくらは入るのか?それがないなら、取材のスタッフが、現地で どんな良い思いができるのか 等々。 普通なら、このような紙面の使い方をしているのは、現地でもらえるパンフレットだ。航空会社のパッケージツアーも同様だ。読者はこれを買う必要はなくて、無料で配られるものだろう。

以前米国でコンファレンスに参加して、日本の大手電話会社の人と話をしたことがある。その人は、コンファレンス会場のあるホテルに滞在していたのだが、結構高級なので、これでは赤字だということだ。会社が出してくれる宿泊費は100ドル。それに対して、このホテルは130ドル。毎日30ドル赤字だという、そんな感じだった。 随分前のことなので、今ではどちらも相場は上がってるだろうが、とにかく足が出た。
私が習っていた先生も、その会社の出身の人で、「今でも30ドルで、米国のモーテルに泊まることができるか?」というようなことを、私に聞かれたことがある。海外出張での会社の宿泊費の払い方一つで、社員のホテルに対する見方がかなり変わってくるものである。

宿泊費の下限を決め、最低保障すれば、随分違うはずだ。最低でも90ドル宿泊費を支給し、それ以下のところに泊まった場合には、社員が差額をもらえるようにする。そうすれば、社員は安宿探しに、いっきに熱心になるはずだ。(当実費支給なら高級ホテル泊まろうとするその動きを封じる手立ても、合わせて必要だ。)

日本の某有名旅行ガイドブックの会社では、このようなシステムにはなっていないと思う。高級ホテルの情報が満載で、社員もそういうところに滞在して、現地調査しているとしか思えないからだ。

この会社の社員が、お手軽な値段の宿屋に、もっと目を向けるようになったら、ガイドブックの内容も同じような方向に、大きく変わるはずだ。社員の出張の経費削減努力を、自分自身にも還元するような仕組みの採用を期待したい。私は業界人間でも、この会社の社員でもないので、内部のことはブラックボックスである。この会社の規則を100%言い当てることなど不可能だ。それでも、実際に起こっている現象面から、私の言っていることは、ほとんど間違いないと想定される。

なぜ、一旅行ガイドブックの会社の 腹の問題だけにこだわるかというと、これが、我々旅行者へ与える影響が莫大だと思われるからだ。「日本人はこのガイドブックに書いているところにしか行かない。」 これが私の見立てだ。当然、これは正確ではなくて、例外はあるだろうが、「日本人はテレビ番組に影響されて行動する。」というのと比べると、それが当てはまる割合は、さらに高いだずだ。  これについては 別途例証する。

私は既に このガイドブックを100冊以上買っていて、個人の読者としては、買った冊数のランキングをつければ、かなり上位に入るはずだ。悪意のユーザーや、敵対するガイドブックの出版社の回し者ではない。良いお得意さんの一人のはずだ。万一、このガイドブックの会社の社員が、ここで書いてあることを聞きつけたら、単に黙殺するのではなく、何らかの参考にしてもらいたいものである。


海外旅行はたまに出掛けて、リッチに過ごすものだという考え方と、私のように「お金があるから外国へから、お金がないから外国へのパラダイムシフト」を主張するような立場では、考え方が随分異なるので、意見は分かれるだろう。

日本の某有名旅行ガイドブックが注力している高級ホテルの情報を求めている人もいるだろうが、安くて内容が良い、日本語でいう良心的な宿の情報がもっと欲しいと思っている人は少なくない。そちらの方がずっと多いと思う。


会社腹の実費支給なら、すべての社員が高級ホテルに泊まろうとするかというと そうではない。会社に忠誠心を示そうとして、経費を押さえようとする社員も少なくないだろう。私の場合だと、忠誠心というよりも、会社腹の時のノウハウが、自腹の時にも使えるように、会社腹でも、手頃な値段のホテルを探した。


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