Cow girls Project

2006年3月作成
2009年5月最終更新


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牛をペットのように世話している
メンバーのVangie

フィリピンでは、ハイスクールまでは 公立の学校に通う限り 学費は高くない。学校が遠くにあって 交通費が払えないとか、沢山子供をつくり過ぎて、食べていくだけでも大変だといった状況を除けば、かなり貧しい家庭の子供でも、ハイスクールまでは卒業することができる。

しかしながら、大学になると、公立のハイスクールとは比較にならないほど、学費が跳ね上がる。特に田舎に住んでいては、自宅から大学に通えないことが多い。その場合、親戚の家に居候できればまだ良いが、下宿すると費用が大きく膨らむことになる。

そこで、牛を育てて学費を捻出するCow girls Projectを始めた。別途 「海外出稼ぎ希望貧困学生支援プロジェクトとして紹介しているように、看護婦になって米国で働く人を、主な対象に考えている。そのためgirlsとした。男性のメンバーが加われば、Cow boys & girls projectと名前が拡張されることになるはずだ。

このプロジェクトでは、メンバーやその家族が自分たちで牛を育て、自助努力を多く要求している。

現状の見積もりでは、学生が大学に通っている間に、10頭程度の牛を常時 育てている必要がありそうだ。

牛の成長曲線

フィリピンの田舎では牛が沢山飼われている。通常は、資産として牛を飼い続け、家族が急病になった場合などに売り払うようなことが多い。これに対し、このプロジェクトでは、子牛が8ヶ月から1年半くらいの間、成長曲線が急速な立ち上がりを示し、牛が急速に育つところに着目している。生後8ヶ月前後の子牛を購入し、1年以内に大きくして売り払う。そして、次のために、また子牛を買う。その値段の差が収益となり、ここから学費を捻出する。これが基本的な考え方である。例えば、6千ペソで買って来た子牛が、成長して3倍近くの値段になって売れれば良いなと思って取り組んでいる。 メス牛の場合は、普通は毎年子供を生む。生まれた子供が大きくなるまで育てるという方法も併用している。

豚か牛か?

豚か牛かを比較すると、豚の方が より多くの家庭で飼われている。フェスタで食べるのに必要ということもあるのだろうが、子豚と子牛の値段の差も大きく影響していると言える。子豚の値段は、地域や大きさにもよるだろうが、私の隣家の場合、生まれて1〜2ヶ月程度の子豚を500ペソで売っている。場所によっては、その倍の値段で買っているという話を聞いたこともある。とにかくその程度であろう。これに対し、牛の場合は、子牛が しばらく 母乳を飲むので母親と一緒に過ごさせる必要がある。 母牛と分離してもよい生後5ヶ月程度の牛の値段は5000ペソ程度である。子牛の値段が高いことが、参入障壁になっていると言える。

これだけなら、豚を飼った方が良いと言えそうだが、餌代が課題である。牛の場合には田舎であれば、周辺の雑草を食べていれば大きくなるが、豚の場合は別に何か食べ物が必要である。残飯などが沢山あれば良いが、田舎ではレストランから残飯をもらうのも難しく、自分の家の残飯だけでは、量がしれている。そこで配合飼料を買って食べさせることが多いが、フィリピンでは豚肉が安いので、配合飼料だけ食べさせていると相対的に餌代が高くつき、大赤字になってしまう。その前にお金がなくなり、豚は空腹のまま大きくならず、その次のフェスタですべて食べれてしまうということになる。

余談かもしれないが、バコロドでは、サトウキビの絞りかすが沢山あり、自分の家にサトウキビ畑があれば、絞りかすを無料で手に入れることができる。これは豚の餌に適していて、バコロドでは餌の問題が解決している。しかしながら、そういう状況では、だれもかれもが豚を飼育し、バコロドで豚を売ることは非常に難しい。これは、バコロドで豚を試しに飼った人の話である。それなら、豚をハムにして、それを
ドゥマゲッティあたりで売れば良さそうだ。餌をバコロドから安く調達するとか、バコロドの状況を利用して、豚で利益を上げられる可能性もありそうだが、一つなにかうまく行けば十分なので、当面は、牛の飼育で収益をあげようとしている。

オス牛かメス牛か

いろいろな観点はあるが、このプロジェクトでは、オス牛とメス牛では、収益が上がるまでの期間の違いが大きなポイントになってくる。
オス牛の場合には、子牛を買ってから1年程度で収入が得られる。メス牛も同様のことができるが、一般にオス牛の方が大きく育つので、肉牛として売るなら、オス牛の方が良い。
メス牛を繁殖用で考えると、買ってきた8ヶ月程度の子牛から、さらに1年程度経ち、人工授精で妊娠し、約9ヶ月後に出産する。それから、1年半ほどして、子供が大きく成長してから出荷できる。全体では、約3年後に、収益が得られ始める。その後は、毎年生まれた子供が大きくなり、それを売って、収益も毎年得られる。この場合、子牛を買いに行く手間が省ける。子牛を買う費用が不要になる。買ってきた子牛を育てても、期待通りには大きくならないことも少なくないが、所有する母牛の子供なら、前の年の子供と同じような大きさ程度まで育つと見込め、見積もりがしやすくなる等のメリットがある。

メンバーが既に大学に通い出しているような場合、メスの子牛を買うところから始めたのでは、学費として使えるお金が入ってくる頃には、大学を卒業しかけていて、ほとんど意味をなさない。そういう場合にはオス牛が適当である。その場合は、毎年売っては 買ってを繰り返し、結構大変だ。それは良しとしても、資金面での準備が不十分で、資金不足のため、牛が大きく育つ前から売ってしまわないといけない 状況に陥りかねない。やはり、早めに準備を始めて、大学に入学する時には、すべての学費が預金通帳の中に入っているくらいの状態であれば素晴らしい。しかし、ある金はすべて使ってしまいそうなのがフィリピンの国民性と言えそうで、沢山資金が貯まった場合には、その管理に十分気をつけないといけないだろう。

現状では、大学の1年生、ハイスクールの2年生、小学生の3人のメンバーがいるが、牛の育て方については、例えば、大学生の方はオス牛が中心といったように、牛を育てる上で、それぞれ取り組み方が異なっている。

政府が 外国種の大型の母牛を貸し出し、貧困層の家族がそれを借りて世話し、生まれた子供をもらえるというプロジェクトがある。あらかじめかなりの数の母牛を準備し、これと同じようにして母牛をプロジェクトのメンバーに貸し出し、メンバーが卒業すれば、他のメンバーに母牛を回すようにすれば、プロジェクトに必要な資金を かなり抑えることができそうだ。

牛の飼育

牛を飼育は、かなり簡単である。以前住んでいたアパートの近くの住人は、牛を育てる経験が豊かで、牛で かなり利益をあげていたのだが、10頭程度の牛の世話をするのに1日1時間ほどしかかけていないと言うことであった。

基本的に牛は草のあるところにつないでおけば、勝手に草を食べている。朝 水を飲ませた後、牛をまとめて、草のある場所に移動させ、ロープで木や岩などにつないでおく。そして、夕方連れて帰り、再度 水を飲ませ、家の周りにつないでおく。近所の専門家によれば、これの繰り返しとのことだった。牛は、1頭どこかに連れて行こうとすると、ヌーのように、他の牛も後を追ってくるので、慣れてくれば、まとめて移動させることが可能である。

実際には、グルメの牛がいたり、他人が箸をつけたものは食べない人のように、他の牛の食べ残しの草を匂いでかぎ分けて 避ける場合があったり、1時間仕事だけでは、済まないことも少なくないかもしれないが、大抵の牛は放っておけば 勝手に草を食べるので、世話は簡単だと言える。

天候の影響

肉骨粉は問題外だが、とにかく 雑草だけを食べさせて牛を育てようとしているので 天候が気になる。シキホール島では、通常4月〜5月中旬には雨が降らず 草が枯れる。そのため、場所によっては、木の葉を 離れた別の場所まで採りに行く等の労力が必要になる。葉っぱがあれば、それでも良いが、エルニーニョが発生して、葉っぱがほとんど手に入らなくなる可能性も考慮する必要がある。

子牛の調達

以前からこのプロジェクトを進めたいというアイデアはあったが、子牛がなかなか見つからなかった。ところが、少し前に オートバイを購入したので、それをアルバイトの人に貸して、シキホール島を一周して、広く売り牛を探してもったところ、1日で結構の数の売り牛が見つかるようになった。
ただし、成長が遅い牛を、ババ抜きのように、皆で転売しあっている例などもあり、できれば 母牛を沢山飼って 繁殖する方法を多用した方が良さそうである。


経過 2006年3月

現在3名のメンバーがいて、それぞれ、大学1年、ハイスクールの2年、小学生が1名ずつである。牛は既に20頭ほど購入した。順調に大きくなっている牛も多く、わずか4が月で、値段が倍になって売れた牛もいる。

一方、当然予想していたように、問題も多い。ほとんど成長しない牛を、メンバーの親が 勝手に他の人物が所有する牛と交換してしまった。その後 交換した相手が、騙されたことに気づき、カンカンになって元の牛を取り戻しに来た。しかし、その親は要求を拒否してしまった。その結果、相手がいる地域には、行くことができなくなった。

メス牛は 人工授精させて、外国産の大きな牛を父親にすれば、大きく育ち 高く売れるはずだ。しかし、管理が悪いため、知らない間にどこかで、勝手に子供をつくってしまったメス牛がいた。一度失敗したので、次からは、うまくいくはずだ。

フィリピンなので、当然予想したように不正経理も横行している。外国の政府から送られた援助の資金が、マニラでかなり減って、地方の公共団体に少し渡り、そこでほとんど無くなって、現地の貧しい人々のところには届かないと噂されているのと同じように、学費に回るはずの資金が途中で目減りしてしまった。インチキができない方法を導入しようとしているところである。

買った後 すぐに死んでしまった子牛が2頭出た。症状からどうも毒虫を食べたようである。ある日突然 調子が悪くなり、その次の日には死んでしまった。普通なら、そんな牛は食べないはずだが、近所の人がやってきて、あっと言う間に解体し、大喜びで 食べてしまった。
サピリンという毛虫のような毒虫がいて、大きな牛でも それを食べると、同じ様な症状で死んでしまうと言っている人もいる。最初に死んだ牛は、初めて私の家のすぐ横まで来て、そこで葉っぱを食べて死んだ。 もう1頭は、そこにあった木を切ってもらい、それを別の場所に移したところ、移動した先に行って葉っぱを食べた後に死んだ。牛が死んだ場所でサピリンを探したが、いくら探しても見つからなかった。サピリンは、特定の大きな木に住んでいるとのことでもあり、今回の牛の死因とは関係なさそうだ。近所の子供にサピリンを50ペソで発注したが、半年以上経っても納入されていない。

2頭目が死んでから、半年経つが、それ以外の牛は未だ元気にしている。

いろいろ問題もあるが、通常なら、例えば、そこそこの大きさの母牛を1頭持っていて、人工授精で生まれた子牛を十分大きくなるまで育てて売れば、2万ペソ程度の値段で売れるはずである。5頭いれば、それの5倍の収入で、これが毎年続く。ほとんど収入がないと言った方がよいフィリピンの田舎では、これはかなりの高収入と言える。うまく管理運営すれば、このプロジェクトで、大学に行く学費を捻出することは十分可能である。


経過 2007年11月

Viano Problem

前回 不正経理が横行していると書いたが、これがVianoと呼ばれる人物で、最初のメンバーの学生の親で、とんでもない悪党であることが判明した。プロジェクトで育てていた牛のほとんどを勝手に売り払ってしまい、お金を使い込んでしまった。写真入りの牛の台帳をパソコンに入力して管理しているので、こちらも、そう簡単には騙されない。一頭一頭確認していったところ、既に勝手に売っていなくなってしまった牛に対して、他の牛を見せて「これだ。」という。 しかし、そんな急に角が長くなるはずはないので、嘘は簡単に見破れた。「この牛は十分大きくなったので、私が連れて行って売ってくる。」と言うと、嘘を白状した。

結局、残った牛は別の場所にすべて移し、損害については、その相当額について、警察で借用証書を作成してもらった。と言っても、フィリピンのことなので、お金が返ってくるとは期待できない。今後、再度、悪事を働いたり、嘘をついたりしたら、この件を詐欺で起訴し、その時には、この借用証をもとに、損害額を請求するということにした。 学生の方は、牛がいなくなって、そのままNursingのコースを続けることはできないので、他のコースに移ってもらい、プロジェクトからは外れてもらった。

近所の人の中には、Vianoは 頭が良いと言っている人がいたが、私に言わせれば、幼稚園レベルにも達していない。このプロジェクトを続けて、予定通り、娘が外国で働けるようになれば、フィリピンの田舎で働いているのに比べ、2桁ほど収入が増える。そのチャンスをみすみす失ってしまったのであるから、将来のことを何も考えることができないとしか言いようが無い。

こちらが善意で進めているプロジェクトなので、ある程度は性善説が通用して欲しいとも思ったが、そんなにフィリピンは甘くない。あくまで常に疑いの目で見ないといけないことが、ここでも示された。それでも、最初にガードを甘くして、いろいろな問題点をあぶり出そうというのが狙いであったので、この失敗は想定内である。

毒虫問題

子牛が死んだ理由を、毒虫に求めていたが、別途紹介したように、毒虫を食べさせても、牛は死ななかった。毒虫の噂は、怪しくて、別の理由のようであった。人為的なもののようだが、まだ原因は判明していない。また、鼓腸症で対策が遅れて死んでしまった牛も出た。
ここ1年近くは安定しており、死んだ牛は出ていない。

高く売りつけられ、安く買い叩かれる

4ヶ月で値段が倍になった牛もあったが、全般には、子牛を高く売りつけられ、成長すると、買い叩かれるという状況が続いている。仕入れの倍余りの値段では売れているものの、1年以上世話をしているので、かけた労力に見合っていないと言える。安く買い叩き、高く売りつければ、自分の利益は増えるが、損を他のフィリピン人に回しているだけであり、これもイマイチである。そこで、子牛を買ってきて育てる方法は、基本的には止めて、優秀なメスをできるだけ増やし、毎年子供を生ませて大きくなるまで育てる方法をメインにすることにした。
準備に時間はかかるが、これだと、仕入れに費用がかからないので、少々買い叩かれても何とかなる。これだと、基本的には人工授精するので、どの牛もかなり大きく育つと期待できる。


暗い話ばかり書き並べたが、これらは既に対策も示してある。
現状では、どの牛もほぼ順調に育っているし、それなりに長期の見通しが立てられるようになってきている。
メンバーの学生はVangieとElen Meeの二人になってしまったが、嬉しいのは、二人とも勉学に励んでいることである。昨年の成績が、Vangieは、学年で5番目、Elen Meeの方はクラスで3番目だったそうだ。また、特にVangieは、毎日 牛の世話に精を出していて、日本人の訪問者から、日本の学生にも見習わせたいという意見が多く聞かれ、日本人は勤勉で、フィリピン人は怠け者という一般に言われているのとは、かなり離れた状況になっている。
私の方も、多数の看護婦を米国など海外に送り出すという30年計画を堅持している。

私はこのプロジェクトでは牛の世話をするという位置付けではないが、牛はとても人懐こくて、ついつい世話をしたくなるのは当然のことであろう。牛の相手をしているのが、このプロジェクトでは一番楽しい。反対に、幾ら高く売れても、可愛がっていた牛を売るのは悲しいものがある。

Vangieと世話をしていた牛。上の写真と同じで、かなり大きくなって出荷された。

Elen Meeと家族が世話をしている牛

Elen Meeはまだ小学生で、主に、最近生まれた妹の世話をしている。牛の世話は、ハイスクールに入る来年からに期待したい。


経過 2008年10月

前回の経過説明では、悲しい事実が並んだが、今回は、米国人の電話でよく聞かれるように"Good news. Bad New."どちらもいくつかある。

メンバーのVangieが大学へ進学

最初に このプロジェクトで支援していたLovelieという女の子は、親がとんでもない悪党で、詐欺を重ねて、結局Lovelieの学業は頓挫してしまったが、学年が三つ下のVangie(バンジー)が今年から大学に進んでいる。

まずは めでたいのだが、そこはフィリピン。ただでは済んでいない。シキホール島の近くにあり Nursing courseで学費が安いのは、ドゥマゲッティにある公立のNORSU(Negros ORiental State University)で、そこを受験したのだが、残念ながら不合格になってしまった。成り行きを順番に説明すると以下の通りである。

この大学のNursing courseの入学選抜では、ハイスクールの成績が重視されていて、今年は足切りが85であった (3年前は88だった。) Vangieは十分足切りを上回っているので、安心していたのだが、そこに落とし穴があった。
まずは、英語の試験で、これはハイスクールからの実力を反映して問題なく合格点を取れたそうだ。ところが、Entrace Examinationと呼ばれていて、学長の名前を答えさせたりする常識問題の試験で遅刻。時間が足りず不合格になってしまったそうだ。トライシクルがなかなか来なかった。そして渋滞に巻き込まれたそうだが、それこそが、まさにフィリピンの常識である。田舎育ちで、これまで学校には、すべて徒歩で通っていたのがあだになったようだ。
最後に、専門の適正検査のような試験で、人体のある部分を見せて、単なる暗記ではなくて考えさせる問題が出たそうだが、よく分からなくて、この試験も合格点に達しなかったそうだ。日本だったら大学の入学試験の合格のため何年も準備するのが普通だろう。それを何も準備していないので、落ちてもしかたないとも言える。
3年前にも近所の学生が同じコースを受験した。その時には、足切りの点数が高かったこともあり、点数が上回っていたその学生は、難なく合格できていた。それと同じように考えて、私も甘く見ていたのだが、当時より希望者が増えているのと、さらに、足切りの点が下がっているのとで、競争率がかなり上がってしまった。そのため、沢山の学生を振り落とす必要が出てきて、合格が難しくなったということである。
ただ、専門の試験の内容を聞いてみて、それで合否を判定するのに相応しいかどうか疑問を持った。
試験は、全員一斉に行うのではなくて、同じ内容で、申し込み順に分けて 何度も実施し、1週間以上続けて行われている。そのため、前日までに受験した人から試験の内容を聞いた人が、多く合格しているのではないかという疑問もある。これについては、試験の内容は口外するなと大学側は言っていて、性善説に基づいているが、入学試験で、このようなやり方は非常に疑問だ。私の経験だが、船に乗るのに、まともに並んでチケットを買おうとして、横入りにやられ、満員になって船に乗れなかったことが何度もある。これは、フィリピンだけに限らないが、そのような状況が起こっている国で、この試験の実施方法では、どれだけまともな選抜ができるか疑問がある。
とにかく、合格することが大切なので、当たり前だが準備が必要だということが教訓として残った。
ちなみに、この大学の他のコースでは通常、試験は選抜ではなくて、適性検査のようなもので、来るものは拒まず、基本的には全員入学を許可している。

試験の話は そこまでだが、結果が発表され、不合格になり、別の大学に行く選択肢もあったが、学部長と個別交渉で敗者復活できる可能性があるということで、まずはそれに賭けた。その結果は、二科目も合格点に達していないため、やっぱり駄目だった。提示された条件は、今年は、数学、科学などの一般教養の科目を受講し、その成績が悪くなければ、来年、無試験でNursingに編入してもらえるというものだった。1年生で取得すべき専門の科目は受講できず、5年コースということになる。学費を払う側からすれば、今年は大学に行かずに、来年 再度試験を受けて合格してもらい4年で卒業してもらった方が安くつくので、そちらにして欲しいと思ったりもする。しかし、入学試験はないし、今年 取得した単位は有効で、何より本人はこれで良いと思っているので、5年コースの大学進学が決定した。

紆余曲折はあったが、何より本人が楽しそうに学校に通っているので、まずは一安心である。

今後のために、各学年の学生から情報を集めて、合格必勝マニュアルを作成する作業が残っている。これを作成するのは、当然Vangieの仕事であろう。私は指図するだけだ。

牛がホースに大化け?

もう一人のメンバーであるElen Meeの方は、このプロジェクトに参加したのが小学校4年生の時。大学に進学するのは、まだまだ先の話で、通常ならそんなに早くから準備する必要はない。それでも、いろいろな場合があっても良いので、他とは違って、試しに1頭だけメスの牛を世話するところから始めた。当初は痩せた子牛が大きく育ち、人工授精で生まれたオスの子牛も1年ほどで結構大きくなったところで、3年が経過した。

通常なら、このまま、母牛には子供を産み続けさせ、子牛は、あと1年半ほど世話をして、十分大きくなるところまで育て売り払い、そろそろ牛の数を増やしたい時期でもあるので、メスの子牛を何頭か新たに仕入れたいところであった。

しかしながら、親が牛ではなくて、自分の子供の増産体制に入り、たて続けに四女、五女が生まれて、Elen Meeは牛の世話でなくて、妹の世話で大忙しになってしまった。子供が五人、すべて女の子で、親の気持ちも分かるが、ほとんど収入もない状態で、子供を五人も造るとは、日本の常識では到底考えられない。見方を変えれば、日本でも 少子化対策に貢献したという言い方もできるかもしれないが、それは、そこそこ経済的に余裕のある人にがんばったもらった方が良いはずだ。

母親も子供の面倒を見ないといけないので 働くことができず、経済的に困窮し、ヤギや別の牛など売れるものは何でも売っているので、こちらも見かねて、プロジェクト所有である上記の子牛を売るという話を私の方から持ち出した。そして、半分は生活費に、残りの半分を、別の子牛を買う費用の一部に当てるよう提案した。もう1年世話すれば、値段が倍程度になるはずで、そんなもったいないことはやめようという反論も期待していたのだが、背に腹は変えられずで、大喜びされてしまい、結局 子牛は手放すことになった。

母牛の方は、さすがに手放さないのが普通だが、今回は、利益確定や別の成果を出したいという思いがあって、そちらも売ってしまうという話を進めた。というのは、お金がなくて、子供を育てていけないので、牛を売るしかないという状況になる恐れがありそうだった。それよりは、ホースを買って水道を引いて、それによる経済効果に期待した方が、将来の投資になって良いと思ったからだ。辺鄙なところに住んでいるので、水道の本管から600mも離れていて、通常なら、貧乏人が水道を引ける状況ではないのだが、ちょうど牛の収益でそれが実現できそうだった。また周囲の数百メートルの範囲でも水道は来ておらず、近所の人は、これまで遠くからトライシクルで水を運んでいたか、台車に乗せて自分で運んだかであった。近所の人もこの水を使えて、合計すれば月数千ペソの節約になりそうだった。近くでポリタンク1本の水が1ペソで売られているが、それに対抗して「トロいどす。(troi dos)」(3本2ペソ)で売っても、Elen Meeの家には、そこそこの収入になる。

結局、牛は全部売り払って 水道を引くことに決定した。

「高く売りつけられ、安く買い叩かれる」状況は変わっていないが、自分のところで生まれた子牛も含まれていて、3年で5倍程度の金額になった。外国人の私がかかわって不利な状況にもかかわらず、そんなに悪い数字ではない。6年で25倍、9年で125倍という皮算用をするわけだが、もちろん25倍や125倍にするため、大変な労力を前提にしている。それでも、仕事がなくて困っている人だらけの状況では、それも悪くはない。実際には家族で面倒見ているだけなので、いろいろな制約から適度な規模で収まり、その都度、牛の一部分を売ってしまうということである。

牛がホースに大化けしたなどと言っているが大したことはないと反論されそうなので ? が着いているが、実際に水道が来て、関係者はみんな喜んでいるので、この件でも、成果は十分あったと言えそうだ。

どこかの支援で水道が来たというより、3年働いた収益で水道を引くことができたというところに、個人的に意義を感じている。

Elen Meeの家に水道を引くために購入した600mのホース

口径1インチ100m+3/4インチ100m+1/2インチ400m
徐々に細くしていく。

子牛が全部で六頭生まれる

牛を「高く売りつけられ、安く買い叩かれる」という課題は続いているが、この対策としては、母牛を沢山揃え、子供を生ませるのが一番であろう。仕入れが無料なのと同じで、売る時に 少々買い叩かれても、確実に収益が出る。

メスの子牛を育てて、それが大きくなって子供を生んだので 結構時間がかかったが、これまでに合計六頭の子牛が生まれた。出産で医者を呼んでくるというようなことはなくて、放っておいたら 朝 子牛が生まれていたということが多い。大きくなる種類の母牛を沢山増やし、それを、プロジェクトのメンバーにまとめて貸し出し、子供を沢山生ませて、大きく育てて収益を上げ、学費に充てるというのが理想的だ。

最近生まれた二頭の子牛
生後3ヶ月(左)と1ヶ月(右)


牛を沢山世話してもらい、学生の数を増やすのが理想だが、現状はそうはなっておらず、まだまだ試行段階である。万一、牛が大量に死んだ場合に、学業を途中で諦めてもらうわけにもいかないので、最悪の場合に備えての資金を貯めておく必要があるが、それほど資金に余裕があるわけではなくて、そこが一番の課題になっている。

それ以外にも、家庭の都合などで、それほど多くの牛の面倒を見れないこともある。これは 周囲に牛の餌にできる草がどれだけあるかにもよる。

成績が優秀なので、プロジェクトのメンバーになってもらっても、性格に問題があり、後で裏切られるかもしれない。旧知の間柄でないと、なかなか始められない。


経過 2009年5月

メンバーのVangieが 大学のNursing courseに進学

昨年、VangieはNORSU(Negros ORiental State University)のNursing courseを受験して見事失敗。一般教養の科目を受講して、それが平均以上であれば、そのまま無試験で、翌年のNuring courseの1年に編入してもらえ、受講した科目も有効という救済策を大学から提示された。 Vangieはハイスクールで成績はトップクラスであったので、問題ないだろうと思い、それに乗っかって1年間、ゼロ年生を送ってもらった。本人は1年間まじめに勉学に励み、成績は平均よりはかなり上だと確信しているので、無試験の編入を信じて疑わなかったが、見事に大学に騙された。平均というのは全学の平均ではなくて、Nursing courseの平均だと言い出したのである。それだと、成績が最低でも全学の数パーセントより上のグループの中での平均ということになる。それは、正規分布のかなり上位の部分だけの平均というようなことで、その中のトップクラスが、平均を引き上げるため、モードやメディアンよりもさらに上位に入っていないと平均以上にならない。話は長くなるが、例え話をすると、ビルゲイツの子供の通う学校で、親の収入や資産が、平均を超えることは、ビルゲイツ以外はほとんど不可能というのと話が似ている。この場合、資産が100億円程度はないと平均を越えることはできない。

もともとは、全学の平均しか要求していなかったはずだが、学生が沢山くるので、振り落とす必要があり、無茶なことを言い出したと考えられる。試験の合格者の平均以上といっているのだから、大学の授業の科目と、入学試験との内容の違いはあるが、普通なら、入学試験に受かる方がはるかに簡単だと言えよう。

VangieはNuring courseの平均よりは、少しだけ足りなかったということで、無試験入学は却下され、入学試験を再度受ける羽目になった。昨年の反省で、入学試験については、過去問集を作ったり、試験対策の情報を十分集めたりしようということになっていたが、無試験と信じきって、何も準備ができていなかった。試験は専門の関連のCourse exam.一つだけを受けるよう要求され、昨年の合格点が30点で、それは上回っていたのでVangieは受かったかと思っていたが、今年は合格点が40点になって、それには満たなかった。昨年と同じ問題も出題されたそうだが、合格点が昨年よりかなり上がっているのは、過去問を調べたり、想定される出題範囲の知識を身に着けたり、合格者は試験準備をしている人が多いことが容易に想像できる。

こうなっては仕方がないので、別の私立の大学でFoundation Universityを目指すことに方向転換した。大学に行って、そこで要求された書類を揃え、入学試験を受けたところ無事に合格。さらに面接も受かり、難なく入学を許可された。

提出書類の中には、健康診断の結果もあり、それには、肝炎などに罹っていた場合には、入学が許可されないそうである。最初にこのプロジェクトで同じ大学に入学したLovelieの場合にも、同じ条件がついていたはずだが、情報が伝わっていなかった。これがどこの大学でも必要条件というのであれば、プロジェクトに参加してもらう当初に検査しておくべき話であろう。

こちらは、私学で、かなり営利目的が優先しているので、一定の成績以上であれば入学させる。入学試験はふるい落とすための試験ではなくて、入学後の科目の選択などの参考にするためのもので、英会話の学校でクラス分けなどのために最初に行う試験と性格が似ている。

昨年受けた科目については、転入する大学によっては単位を認めてくれるが、この大学では無効で、再度単位を取り直す必要がある。双六の振り出しに戻ると同じで、Vangieには精神的にきついはずだが、日本でも別の大学を受験しなおす人も居て それと同様の扱いで、とにかく これから4年で卒業を目指し走り出した。
昨年、試験に合格しなかった時点で、Foundationに行ってはどうかという案を私が出して、却下されてしまっていたが、それについては、フィリピンなのでこんなものだと思っておくしか仕方がない。今後同じような事態が起こった場合には、参考事例として使える。

牛が鳴かない問題

学費を捻出するために、牛を沢山飼ってはいるが、残念ながら学費の全額を出すには遠く及ばない。課題はいくつもあって、Vangieの家族の場合には、私が見たところ、思い入れ、合理的な判断、経験、それから餌となる草がそれぞれ不足しているのが課題である。
そこにもう一つ大きな問題が出てきている。人工授精のためのタイミングを知る方法として、こちらでは、牛が発情して鳴くのをサインにしているが、鳴かない牛が増えて困っている。
以前は、オス牛も結構多く飼っていて、牛をつないであるロープが解けると、オスでもメスでもウロウロして、知らないうちに子供をつくってしまっていた。狸のような顔をして、大きくならなくて困っていたオス牛が居て、この牛の子供だけは絶対につくって欲しくないと思っていたが、それが出来てしまった。生まれて2、3ヶ月すれば一目瞭然で誰が親か分かった。それはそれで、課題だったのだが、今度は、成長したオスはすべて出荷してしまったところ、望まれぬ子供もできなくなったが、良く鳴く一頭を除いて、いずれも妊娠しなくなったのである。

インターネットで少し検索したところ、日本では例えば牛の発情検知システムも販売されているそうで、その他、いろいろな情報も見つかり、この件は、さらに検討してから、別途まとめて紹介したい。


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