砂取り物語

2013年8月作成



現地の人たちが海砂をとっていた自宅前の海


自宅の近くの海で、魚を取る仕掛けが壊れて、それに使われている竹を近所の人たちが持ち帰った話を以前に紹介したが、今回は、同じ場所で行われてきた砂取りの話を紹介する。

シキホール島では、大きな川もなくて、これまでは海から砂を取って建築などに使っていた。私の自宅の前はシキホールで一番の遠浅の海が広がっていて、ドロップオフまで1kmほどある。海岸線何キロにも渡って砂が沢山たまっているので、島で唯一この地域だけは、これまで砂の採取が許可されていた。ただし、砂浜の砂が無くなるのは良くないので、海岸から50mより以遠の場所で砂を取ることになっていた。

小舟を使い、砂はセメントの袋に入れて、舟の動力以外は人力で砂をとっていたが、それでも結構良い収入になり、多くの人が砂を取って生計を立てていた。砂の値段はまちまちだが、例えば、一袋10ペソの場合があり、知り合いのマッチョ砂取り人なら、一人で半日働いて100袋くらいは取ってきてしまう。満潮では、砂を取るのに深く潜る必要があり、干潮では海岸まで舟を着けられず、調度良い潮の高さの時しか砂を取れない。さらに 重労働であり、1日取り続けること体力的に難しい。
また 時期によって需要がまちまちで、砂を取る人たちは、以前は暇にしている時も多かったが、最近は道路工事など公共事業が多く、砂を取っている人の数も増え、ミンダナオからも沢山出稼ぎに来ていた。家族も含めると数百人の食い扶持になっていた。

ところが、5月に選挙が行われ、これまで、Political Dynastyと呼ばれて ずっと地方政権を牛耳ってきた金権政治家のファミリーが破れ、それとずっと対峙し、島で一番の金持ちを言われている実業家のグループが選挙で大勝した。売買票の盛んなシキホール島では、これまで大金を積んで票を買ってきた先のファミリー以上にお金を積んだということも大きいし、有権者がPolitical Dynastyを毛嫌いしたということもあろう。選挙に勝ったのは大統領派でもあり、前評判では、選挙違反を大々的に取り締まり売買票はもうお仕舞という噂が流れていた。私もこれは素晴らしいと思い、知り合いにも、売買票はとんでもないと言い回り、実際に票を売らなかった人も少なくない。取り締まりで、以前のようには票の買い付けに回ってこなくなったが、投票日の数日前になって動きがあった。近所の人が、家族でバイクに乗って、やたらと出掛けてくる。さてはと思って確認したら、みんなで票を売りに行っていたのである。普通なら買収と書けばよいところだが、有権者も積極的に高く票を売りたがっているので売買票と書いた。

話が選挙の方にそれてしまったが、政治が代わり、その結果 砂を取る許可がおりなくなった。自然保護のため環境を破壊しないように、もう砂は取るなということだそうだ。

そのため、近所の多くの人は収入がなくなり、生活に困っている。そうとも言えるし、実際にはお金がなくてもなんとかなるもので、暇にしている人が多くなったとも言える。


砂の採取が禁止され、それまで砂で生計を立ててきた人が困っているということ以外にも、直接、間接、いろいろな影響が出ている。

まずは、 仕事がないので、海で魚を獲る人がどっと増えた。乱獲で、以前に比べ魚は減っていて、最近では、やたらと稚魚を獲っているのを見かけるが、漁師が増えて、さらに魚が減らないか心配だ。

以前雇っていた大工の一人は、ミンダナオから出稼ぎに来ていて、砂を取るのと、大工、それから泥棒の主に三本立てで仕事をしていた。怪我をして砂を取れなくて困っていて、まさか自分から泥棒とは名乗らないので、気の毒に思ったら雇ったら、最後に工具を盗まれた。ミンダナオ出身者に限らないが、治安が悪化の方向であるのは間違いなく、私が不在の間、隣人が普段より気を使って私の家を見張っていてくれた。

全般には悪いことだらけで、さらに、砂を他の島から運んでくるので値段も高騰している。噂では、ミンダナオから船で運んでいて、値段もこれまでの1.5倍程度で売られているそうだ。選挙で大勝した実業家は、船を14艘所有していると以前から言われていて、これまでは、主に石油の卸売りで多大な利益を挙げてきた。それと同様にして、今度は、仕入れてきた砂を売って多額の利益を得ていると噂されている。選挙で大金をばら撒いたので、どこかで元を取らないといけないのは間違いない。
砂の元売業者にとっては、大きな利益が得られる良い話であろう。

いろいろな利害があるが、一番得したのは実は私である。

自宅のすぐ近くにカラオケができて、ここ数年、その騒音で大迷惑していた。

以前にも紹介している話だが、私のところは僻地で、もともと電気が来ていなかったが、私の方で、太い電線を買い、その重さに耐えられる十分な強度の電柱を立て、約600mのメイン・ラインのようなものを設置した。近所の人は、そこから、自分の家に引き込む費用を負担すればよく、周囲の約10軒に電気が来るようになった。ところが、それを悪用され、私の家の近くに警察官が家を建て、こちらのメインラインから電気を引きたいと言ってきた。素行が怪しい人物だったが、警察官でもあり拒むのは難しく、「うるさいのは駄目、ごみをばらまいて汚くしては駄目、違法なギャンブルは駄目」この三つの条件のもとに 接続を許した。海の家か別荘のように、たまに泊まりに来るということだったが、家ができた後、程なくして、その横に、勝手にカラオケを建てて営業を始めた。午後10時以降は、法律では営業でいないことになっているが、警察官なので自分が法律のごとく勝手に振舞い、午後10時になってから客がくることもしばしばであった。

今回 選挙の結果砂が取れなくなると、砂で稼いでいた人たちの収入がなくなり、主にその人たちを顧客にしていたカラオケはつぶれてしまった。おかげで、騒音はなくなった。

参考)竹取り物語


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