大きな島を通過た後、台風はどれだけ衰えるか。

2013年 12月作成




台風の話題はこれまでにも何度か取り上げているが、ここでは、いずれも大きな被害をもたらした2013年の台風30号と2012年の台風24号を例にとり、台風が大きな島を通過した後、どれだけ勢力が衰えるかデータを見てみたい。

2013年台風30号(上)と2012年台風24号(下)の経路

上の図は、台風30号と24号の移動の経路を示している。いずれも 太平洋で発生して、フィリピンを横断して行った。西に進む台風がフィリピンでは危険だという話を以前にも紹介しているが、これらの台風もまさにその通りである。

下の図は、台風の移動に伴う気圧の変動を表している。

2012年台風24号の中心付近の気圧変動
12/4にミンダナオを通過し、南シナ海に抜けた
2013年台風30号の中心付近の気圧変動
11/8にビサヤ地方を通過
(どちらもデジタル台風のデータによる。)


台風24号 ミンダナオに救われたドゥマゲッティとシキホール

ミンダナオ島を約240km横断、45hPa上昇、通過時の速度約30km/h

2012年の台風24号は、12月4日にミンダナオ島を約240km横切った。ミンダナオ島では甚大な被害が出たが、その間に台風の中心付近の気圧は、上の図の12/4のところを見れば分かるように、930hPaから975hPaまで45hPa上がり、かなり勢力は衰えた。それでも シキホール島では、別途紹介しているように、台風がかなり接近したので、あばら家を中心に結構被害が出た。ドゥマゲッティでは、ほとんど被害は出ておらず、ミンダナオ島により、ドゥマゲッティとシキホールは救われたと言える。

自分の立場から言えば、そもそも、もしもミンダナオ島が無ければ、シキホールのような危険が場所には住むはずが無いということになる。しかしながら、もしもスーパー台風が スリガオとレイテ島の間から、シキホールへ向けてやってきたら、勢力は衰えないままで、大惨事になろう。ただし、コリオリ力の影響で、台風は南下しにくいので、そのような動きはかなり稀と言える。さらに言えば、台風が西に進みだすのは、夏場の南よりの季節風から、冬場の北よりの季節風へと変わる10月後半以降が多い。その場合には、海水温が北から順番に下がり、台風が発生できる海水温が30度程度かそれ以上の海域は、かなり緯度が低くなり、北緯10度以下へと移っていく。 以上から、シキホールでは、スーパー台風の直撃は不当選確実と言っても良さそうに思う。

不当選確実とは思えても、例えば、への字のルートを通り、うまくスリガオの上を通り抜けて、海沿いにやってくる場合があるではないかという危惧もあるが、テレビの当選確実も間違うことがあるというよりも 起こりにくそうだ。それでも、油断は禁物だろう。

台風30号 パナイ島に救われたベトナム

パナイ島を約120km横断、25hPa上昇、通過時の速度約40km/h

2013年の台風30号は、まずは、レイテ島を約70km横切った。その程度では、台風は衰えないというのが相場なのか、それとも、台風は本来はまだ成長過程だったのか、とにかく、レイテ島を通過した後でも、中心付近の気圧は895hPaのままであった。その後、セブ北部やバンタヤン島の上を通過した時点でも同様で、895hPaのまま勢力は衰えていない。

その後、パナイ島を120km横切り、中心付近の気圧は920hPaまで25hPa上昇した。その後、南シナ海を進み海水温が下がったことや、海南島のすぐ横を通過したことなどで、ジリ貧で勢力は衰えていき、ベトナムに上陸した時には、気圧は970hPaになっていた。パナイ島で衰えた25hPaが ベトナム上陸時にそのまま加算されたという計算は、たぶん正確ではないのだろうが、950hPa程度で上陸するのと、970hPaでは、かなり大きな違いであり、パナイ島のお陰でベトナムは救われたと言っても良さそうだ。

速度その他の影響

そもそも、陸地を横切る距離よりも、通過にかかった時間の方が影響するはずで、台風の速度を無視していては意味が無いとも言える。しかし、台風が来ても、他の島が盾になって、それなりに台風の勢力が衰え、その地域はどの程度の被害で済みそうかというようなことを直感的に地図から直接読み取るのであれば、速度は固定して考えれば十分だろう。

ここでは、違う二つの台風を取り上げたので、速度も考慮して、島を通過した時の時間当たりの気圧の上昇で比較すると以下のようになる。

台風24号 ミンダナオ島通過時 気圧上昇 5.6hPa/時

台風30号 パナイ島通過時    気圧上昇 8.3hPa/時

それなりに数字が異なるが、そもそも気圧のデータが5hPa単位なので、有効数字を1桁にした方が良さそうとも言える。しかし、5.6と6では結構大きな違いなので、2桁のまま書いた。

他にもいろいろなことが影響して、一番大きいのは、陸地と言っても、近くにどれだけ海があるかということだろう。例えば、台風24号の場合は、イリガン付近では 海すれすれを通ったが、これも陸のうちとした。

検索してみたら

ここでは、初歩的なレベルの内容で、台風が来た場合に近くの島がどの程度 盾になってくれるか見積もる参考にしてもらおうと思ってまとめてみた。

しかし、あまりに大雑把な議論では申し訳ないので、台風学の入門編を調べてみようとしたが、検索したものの所望の情報は得られなかった。代わりに、台風が通過する場合の陸と海の影響について検討した論文のPDFが見つかったので、リンクを挙げておく。

台風の移動に及ぼす海陸の分布の影響 - 京都大学 防災研究所

この論文では、1971年の台風23号について検討している。この台風は、日本列島を九州から関東へと移動し、途中で海と陸を何度も横切り、海と陸の影響を検討するのに都合のよいということだ。

それによると、台風が通過する3時間前の位置の半径50kmの陸と海の割合との相関が高いということだ。しかし、少なくとも、ここで挙げている台風30号では、残念ながら それは当てはまりそうに無い。台風がパナイ島に上陸して1時間ほど経過したロハスあたりを通過するときには、すでに気圧が920hPaになっていた。それを言うと、ここでの検討で距離当たりとか、時間当たりで計算しているのも、あまり当たっていないのかもしれない。(それでも、最後に合計でどれだけ衰えるかという見積もりには役に立つと思う。) 台風30号の目は、バンタヤン島の上空を通過している頃でも、パッチリと開いていたが、パナイ島を通過している途中には、目は潰れてしまっていた。これは、台風の勢力の減衰が、陸地の移動で時間とともにリニアに近い関係で起こっているのではなくて、大きな島の上陸地点で、一気に傷物にされたというような言い方が当てはまっていそうだ。一旦潰れてしまった目はなかなか元には戻らない。今回の30号もそれで、そのままジリ貧の一途をたどって行った。ただし、台風によっては 南シナ海に出て、また勢力を持ち返す場合も多くて、その場合は、また目が復活していることが多い。

台風30号の経路予実

2013年の台風30号は、当初太平洋を ほぼ西に進んでいた。細かく言えば西西北西(?)ということになりそうだ。そのまま、進めばシキホール島は直撃だったが、台風がフィリピンに上陸する2日前の予報では、1日後には進路を西北西に変えることになって、それを信用するしかなかった。実際にも、前日には進路を北寄りに変え、自宅は被害を免れたのだが、承知のようにタクロバンとその先の経路の地域で甚大な被害が出た。

どうして、少し北上したかと言えば、風の向きとコリオリ力ということになりそうだが、情報が無いのでよく分からない。

さて、ここで一番取り上げたいのは、その後の動きで、上陸直前での予報でも、台風は、パナイ島の少し北の海を通り、フィリピンを通過している途中では、台風の勢力は衰えないことになっていた。しかし、実際には、それに比べると少し進路を西に変え、もとの西西北西(?)くらいの向きに進み、バンタヤン島の上を通り、パナイ島の北部を横切った。その結果台風はそれなりに、衰えて行った。少しの違いで その後の結果に大きな違いが出る非線形の世界に例えたいが、とにかく、予報通りには進まなかった。

予報が当たって得したのはシキホールで、外れて助かったのがボラカイと言えそうだが、ボラカイもかなり被害が出た。


ホームページへ戻る